雨の日は読書だ リライアント・シミターが好き 東京オリンピック2020開催決定に触れて【復刻・徳大寺有恒「俺と疾れ!!」】
2014年11月に逝去した自動車評論家、徳大寺 有恒。ベストカーが今あるのも氏の活躍があってこそだが、ここでは2013年の本誌企画「俺と疾れ!!」をご紹介する。(本稿は『ベストカー』2013年10月26日号に掲載したものを再編集したものです/著作権上の観点から質問いただいた方の文面は非掲載とし、それに合わせて適宜修正しています)。
■雨の日は読書だ
今日は一日雨に降られている。もうすぐ秋雨前線の停滞によるぐずぐずした毎日がやってくる。梅雨とこの秋の雨は日本ならではの風土を作り、文化を育んだ。 日本には昔から雨の文学があった。たしかにうっとうしい時期だが、それゆえに雨の文学ができたのだろう。外国人から見れば、ウェットにみえる文学も日本の風土を知れば納得してもらえることだろう。 ウェットな小説で私が好きなのは、樋口一葉の『にごりえ』だ。『にごりえ』はとてもいい文章だし物語性もあって、雨の日に読むにはぴったりだ。遊女が、妻子と別れ、落ちぶれた男と情死するという話だが、残酷なまでに美しい物語で日本文学の金字塔であることは間違いない。樋口一葉は結核により、24歳で亡くなるが、晩年の14カ月に次々と傑作を生み出した。 最近の若い人は小説を読まないというが、「にごりえ」を未読の方はぜひ読んでほしい。短編なので、半日あれば読めるはずだ。 昨今、私が読んでいるのは千利休の書状だ。桃山時代を生きたこの茶人は優れたエッセイストでもあると思う。むろん、利休といえば茶の湯の巨人であり、利休のことを書いた本はいくつもある。モントリオール映画祭で賞をもらった映画の原作『利休にたずねよ』(山本兼一著)もそんな一冊だ。 利休をはじめ一連の天才たちはなんといってもセンスがいい。このなかには、冷酷な英雄と思われている信長もいる。当時のセンスのいいものたちといえば、何人かの茶人で、信長もそのひとりである。 茶の湯という趣味は本来男のもので、それを理解することは出世の道具でもあり、それゆえに、戦国大名をはじめ武士が茶をたしなんだのだ。 利休の作った京都にある待庵(たいあん)は国宝であり妙喜庵というお寺にある。とにかくシンプルだがすべてが計算され、研ぎ澄まされた美しさがある。利休は並ぶもののいない芸術家であり、彼にまつわるさまざまなことが芸術に昇華した。 利休と秀吉の確執は『秀吉と利休』(野上弥生子著)ほか、死を賜った理由をめぐって多くの作品になっているが、利休が命を賭し、己れの目指す芸術性において秀吉と渡り合ったことが、作品のモチーフになっている。 待庵はわずか二畳という広さで知られる。この二畳に利休の底知れぬ大きな存在感がある。