88年F1鈴鹿GP「コースに神を見た」セナを取材 元レース記者が見たNetflix「セナ」の再現度
さかのぼること30年。1994年の5月、ブラジルの天才自動車レースドライバー、アイルトン・セナが、イタリアでのレース中に事故死した。当時、日本でも大々的に報じられたので、ファンでなくとも記憶に残っているのではなかろうか。Netflix配信中の「セナ」は、その一生を描いた評伝ドラマシリーズ(全6話)である。筆者は88、89年の鈴鹿GPで、絶頂期のセナを目撃した。自動車レースが注目される昨今、筆者が撮影したお宝写真と共に、もう一度この巨星の姿を見つめ直してみよう。 【写真】88年鈴鹿GP予選後、怒気をはらんだ表情でセナを指さすプロスト=1988年10月29日、川崎浩撮影
ブラジルでは「偉人」を超えて「聖人」
アイルトン・セナ(1960年3月21日、ブラジル・サンパウロ生まれ)は94年5月1日、F1グランプリ第3戦サンマリノGP(イタリア・イモラサーキット)の決勝レース7週目にコースアウトしてコンクリート壁に激突、34年の生涯を閉じた。彼がレーサー時代に打ち立てた記録は、3度の世界チャンピオン獲得をはじめここに書き切れないほどだが、ありきたりな物言いなれど、明らかに「記録より記憶に残る」人物であった。ブラジルでは「偉人」を超えて「聖人」とまでたたえられる。日本でもホンダエンジンを使用して勝ちまくったこともあって、大ファン数知れず。「セナ」という読みの名前を付けられた子供がどれだけいることか。全国の「セナ君」「セナちゃん」は、出自を知るためにも全員必見である。 Netflixは、結構「クルマ」ものコンテンツを大切にしていると見えて、24年末時点で、ドキュメンタリー「FORMULA 1 栄光のグランプリ」「アイルトン・セナ 音速の彼方へ」「シューマッハ」を配信中だ。この中の「アイルトン・セナ」は、セナ生誕50年の10年に慈善団体「セナ財団」公認の下、イギリスで作られたドキュメンタリーで、実写を編集した作品である。 本稿で紹介する「セナ」の方は、実写は必要最小限にとどめ、基本的に全編役者が演じ、新しく撮影したドラマである。こちらも「セナ財団」の公認。つまり「セナの公式伝記映像」はドキュメンタリーとドラマの2作品が存在するわけだ。この2作が同時に見られるとは、ファンの至上の喜びである。