ポケトークが「鬼門のアメリカ」でつかんだ自信 苦難続く日系ITスタートアップの活路となるか
トップが異国の地に身を置くことの必要性は、大学卒業後に入社した日本IBMでの経験が大きいようだ。 「日本でこんなにいっぱい問題があると訴えても、アメリカ本社がイエスと言わないという状況があり、悩んでいた。その気持ちがよくわかるから、ポケトークでは日本製品をアメリカに展開するやり方はしていない。アメリカの事業はアメリカ側が、日本にコントロールされない環境をつくることが大事だと思った」(松田氏) 前述のポケトーク分析・管理ツール「ベンタナ」も、現地のゼネラルマネージャーが発案したサービスだという。
■先陣は軒並みアメリカで大苦戦 日本発のITスタートアップは、アメリカ進出で苦戦続きの歴史がある。老舗では、2010年代前半に楽天グループやソーシャルゲームで一世を風靡したグリー、ディー・エヌ・エーがアメリカ企業を買収し進出を試みたものの、軒並み大きな損失を出している。 2010年代半ばから後半は、ユーザベースやスマートニュースがニュースメディアとしてアメリカ市場に挑んだが、ユーザベースは買収時に掲げた3年で黒字化という目標を達成できず、2020年11月に事業から撤退。スマートニュースは2023年1月にアメリカでリストラを行った。
ITスタートアップの雄として期待されたフリマアプリのメルカリも、アメリカ事業の運営に呻吟している。メルカリは2014年にアメリカ子会社を設立し、2017年にはフェイスブックの元幹部を幹部に任命したものの、利用者が伸び悩み赤字が常態化。 直近までの累積赤字は推定720億円にのぼり、2024年3月にはテコ入れを狙って、販売手数料の無料化という手に打って出た。メルカリは問い合わせに対し「事業ごとに累積での業績の開示は行っていない」と回答した。
スポットコンサルのビザスクは、2021年11月にアメリカ同業大手のコールマン社を買収し、「小が大を飲む買収」として話題となった。 しかし2024年2月期の決算で、コールマン社の業績が買収当時における見込みを下回っていることから、同社ののれん145億円を全額減損計上したことを発表。これにより、買収資金の調達先だった取引銀行と締結している財務制限条項に抵触することとなった。 ビザスクの端羽英子CEOは「2021年後半から(売り上げの指標となる)M&A市況の悪化がみられていたが、自分自身がアメリカの状況に対して、間接的な見方になっていた。出張の回数を増やすなど、もっと直接的に関与してアメリカ事業の解像度を上げる必要があった」と取材に対して語っている。