「イマーシブ・フォート東京」世界初!体験型テーマパークの舞台裏
森岡さんがお台場のプロジェクトを任せたのは、テーマパーク全体の責任者、「刀」シニア・クリエイティブ・ディレクターの津野庄一郎さん。「ヴィーナスフォート」の大部分を生かし、複数のアトラクションをつくっていく。中には、元の造りをそのまま生かした場所も。 ここは、地中海料理がウリだったレストラン。「非常にクオリティー高くつくられているので、しっかり活用させてもらう」と津野さん。
一方、イチからセットを組んでつくるのが、グリム童話「ヘンゼルとグレーテル」をテーマにしたアトラクション。その他、江戸時代の遊廓を題材にしたものなど、濃密な体験をウリにしたアトラクションを11つくる予定で、定員は8~100人を超えるものまでさまざまだ。
津野さんが演出まで手がけるのは、2フロアを使って行うイマーシブシアター「ザ・シャーロック-ベイカー街連続殺人事件-」(定員180人)。イマーシブシアターとは、「まるでその世界に入り込んだように感じる」体験型の演劇のことを指し、去年「刀」は、「西武園ゆうえんち」でこのスタイルを仕掛け、今も人気を博している。観客が当事者として、物語の世界に巻き込まれていくのが特徴だ。
お台場で作るのはその大規模なもので、名探偵「シャーロック・ホームズ」を題材にした殺人事件と失踪事件が複雑に交錯していく作品。物語の舞台となるロンドンのベイカーストリートを、元の世界観を生かして再現するという。工事が短期間で済み、コストも抑えられるのが、既存の施設を活用するメリットだ。 津野さんの指示を受け、職人がエアブラシやハケを使い、手を入れていく。目指すは1800年代のロンドンで、エイジングという加工技術で古びた感じを表現。津野さんは、脚本作りや演出に加え、設計やデザインまで、あらゆる仕事に関わる。
津野さんは、森岡さんと同じ「USJ」の出身で、アトラクション開発で実績を積んできた。転機は8年前。同僚と訪れたロサンゼルスで、イマーシブシアターと出会う。 「確信というか、可能性を大いに感じた。そこからずっと、イマーシブが頭から離れなくなった」。 「USJ」では、小規模ながらイマーシブ作品を手がけたことも。今回は、世界でも類を見ない規模で、イマーシブシアターの魅力を世間の人たちに知ってもらえるチャンスになる。 去年11月。いよいよ稽古が始まった。津野さんとタッグを組む、演出家の菅野こうめいさんは、シーンごとにかかる時間を秒単位で測る。 「ザ・シャーロック」は、複数のシーンが同時に進むが、途中、それまで別々だったチームが合流する場面があり、時間を正確に合わせなければストーリーが崩れ、全てが台無しになってしまう。 そこで重要になるのが、キャストの動き出しを伝える裏方のスタッフ。直接指示を出したり、音楽のボリュームを上げることで合図したりと、その方法はさまざまだが、一つでも噛み合わなければ、大きなミスに発展してしまう。公演は90分ノンストップで、一度始まったら止められない。