夏の甲子園で見つけた逸材! 西日本短大付のスピードスター・奥駿仁はプロ顔負けの快足で敵を翻弄する「理想の1番打者」
金足農(秋田)と西日本短大付(福岡)の一戦。試合前のあいさつが終わって、センターのポジションに向かって走っていく「背番号8」の走りっぷりのよさが、目に飛び込んできた。 【写真】ヒロド歩美キャスターが甲子園と阪神タイガースを語る・インタビューカット集 蹴り上げていく足の回転の力強さと速さ。なにより、その安定したランニングフォームの美しさに目を奪われる。四肢のボディーバランスが抜群だから、ポジションまで全力で走ってもフォームが乱れない。 秀でた才能は探さなくても、勝手に目に飛び込んでくるもんだとあらためて実感した。 【一塁到達3秒78の快足】 西日本短大付のセンター・奥駿仁(おく・はやと/2年/174センチ・64キロ/右投左打)。2年生外野手トリオの要となる、快足のリードオフマンである。 その「足」を、実戦でどう生かすのか......そんなことを思っていたら、最初の打席から見せ場がやってきた。詰まりながらレフト前に落として出塁すると、次打者の時にショートバウンドの投球を捕手が逸らすと、ボールはバックネットまで転がる。 「三塁まで行くぞ、これは!」 思わず記者席で叫んでしまった。そのとおり、奥は二塁ベースを回ると減速することなく三塁へ。その足の速いこと。あっという間に三塁に滑り込むと、2番の井上蓮音のレフト前安打で先制のホームを踏んだ。まさに電光石火の先制点。一気に流れを引き寄せた。 第2打席、引っ張った強いゴロは一塁手の正面を突いた。それでも奥はセーフになろうと全力で一塁に駆け込んだ。そのタイムは、私のストップウォッチで3秒78。プロの世界では3秒9前後で俊足と認められるスピードである。これだけでも奥の足がいかに秀逸かわかるだろう。 第3打席は三塁正面のゴロとなり、迎えた第4打席。二死一・三塁からみえみえのセーフティスクイズで、相手守備陣に勝負を挑み、間一髪でアウトとなったが一塁到達タイムは3秒84。
「ひと言で言うと、いやらしいバッター。足が速いだけじゃない。最後の打席見ましたか? エバース(バントの構えからバットを引いて投球を見る動作)やったり、スイングしたり、またエバースをやったり......。いろんなことをして相手ピッチャーを揺さぶって、四球をもぎとって、初球に盗塁でしょ。あんないやらしいバッターはなかなかいないですよ」 西日本短大付OBで、現役時代は自身も俊足、好守、好打の遊撃手だった弓削博輝副部長が頼もしそうに笑っている。 【辛口コーチも認めた超美守】 守っては、8回表二死一塁から金足農の1番・高橋佳佑のジャストミートした打球が、ライナーで左中間に伸びる。「カーン!」と打球音が響いた瞬間、奥はサッとスタートを切ると、打球に向かって一直線に向かっていく。 渾身の追走が美しい。懸命の全力疾走なのに、頭がまったく動かない。真っすぐに追って、目線がブレないから、当たり前のようにグラブに収めてしまった。 「あれはスーパープレーでしょう。超のつくファインプレーだと思いますね」 普段は辛口の弓削副部長(コーチ)も認めた、見事なスーパーキャッチ。 「顔を見てもらえばわかると思いますが、『オレが一番でしょ』って思っていますよ。セーフティだって、警戒されている時ほど『決めてやりますよ』って、そういうヤツです。1番打者としては、理想的な性格をしていると思いますよ」 本人の自己申告では50m5秒8。 「もう、とんでもなく足の速いヤツです。ウチも足の速い選手は、歴代かなりいましたけど、あんな速いヤツは初めてですよ」 西日本短大付の指導者となっておよそ20年の西村慎太郎監督も、半ばあきれるほどのスピードスター。そういえば西日本短大付は日本ハムの新庄剛監督の母校としても知られ、西村監督は同期である。 「奥選手と現役時代の新庄さん、どっちが速いですか?」と聞くと、西村監督は「うーん......」と、答えが返ってくるまでに10秒ほどを要した。 「新庄は長い足を生かした大きなストライドで走って、奥は足の回転が速いピッチ走法でしょ。タイプが違いますけどねぇ......うーん」 次戦は大会8日目の第4試合、相手は菰野高校(三重)。今日は見られなかったジャストミートしたライナー軌道の長打も見てみたい。ホームランは「野球の華」と言われるが、一方でスピードと躍動感に溢れたスリリングな走塁も、間違いなく野球の醍醐味である。 「高校野球2024年夏の甲子園」特設ページはこちら>>
安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko