小惑星「2023 FW14」は火星のトロヤ群小惑星の謎を解くカギとなるか
太陽と惑星の重力によって安定する点である「ラグランジュ点」に存在する小惑星を「トロヤ群」と呼びます。火星ではトロヤ群小惑星がこれまでに16個発見されていましたが、その大半は火星に従うように公転しているように見える「L5トロヤ群」に属しており、火星に先行して公転しているように見える「L4トロヤ群」に属する小惑星はこれまで1個しか発見されていませんでした。 地球の新たな準衛星「2023 FW13」を発見 西暦3700年まで存在する “月のような天体” マドリード・コンプルテンセ大学のRaul de la Fuente Marcos氏などの研究チームは、昨年発見されたばかりの小惑星「2023 FW14」が、観測史上2番目となる火星のL4トロヤ群小惑星であることを明らかにしました。2023 FW14が火星のトロヤ群である期間はかなり短いと予測されていることから、火星のトロヤ群小惑星全体の起源に迫る重要な手掛かりとなります。
■ラグランジュ点に存在する「トロヤ群小惑星」
太陽と惑星の重力について力学的に解析すると、重力が釣り合って安定する点が5つ現れます。これを「ラグランジュ点」と呼びます。このうち、太陽・惑星・ラグランジュ点の3点で正三角形を描くことができる2つの点を「L4ラグランジュ点」および「L5ラグランジュ点」と呼びます。 L4とL5はラグランジュ点の中でも特に安定しているため、太陽や惑星と比べて極めて小さい小惑星のような天体が長期的に安定して存在すると考えられています。同じようなアイデアにもとづき、スペースコロニーを配置するという構想やSF作品を通じて、ラグランジュ点という用語を聞いたことがある方もいるかもしれません。 惑星からラグランジュ点にある小惑星を眺めると、惑星とほぼ同じ公転軌道を、見た目の上では同じ距離を保ちながら先行あるいは後続して進むように見えます。先行して見える小惑星はL4、後続して見える小惑星はL5に位置します。このような性質を持つ小惑星は木星で初めて見つかり、トロイア戦争の英雄に因んでアキレスと命名されていた事から、現在ではこのグループを「トロヤ群」と呼んでいます。 火星ではこれまで16個のトロヤ群小惑星が発見されており、これは太陽系の全惑星でも3番目の多さです。ただし、そのうちの15個がL5トロヤ群小惑星であり、これまでにL4トロヤ群小惑星は1999年に発見され、2003年にL4トロヤ群に属することが判明した121514番小惑星「1999 UJ7」の1個しか見つかっていませんでした。 なぜこれほど小惑星の数に極端な差があるのかは謎ですが、部分的な回答として、L5トロヤ群小惑星のいくつかは同じ天体に由来する破片であるという仮説があります。火星のトロヤ群小惑星の表面の色 (スペクトル分類) を観測した結果、5261番小惑星「エウレカ」と似た色を持つL5トロヤ群小惑星がいくつも見つかりました。エウレカはL5トロヤ群でも最大の小惑星(約1.9km)であることから、天体衝突や分裂(※)によってばら撒かれた破片がL5トロヤ群小惑星として公転し続けているためであると考えることができます。 ※…小さく不規則な形状をした天体は、太陽放射によって自転周期が変化し、これを「YORP効果」と呼びます。YORP効果のシミュレーションでは自らが分裂するほど自転が加速されることがあります。