【100円ショップ三国志】1兆円市場を制する″新戦略″…海外進出も始まり″高額商品″も多数登場
″100円均一″から″最強コスパショップ″へ
100円ショップはもはや、「100円均一」ではなくなっている――。 8月下旬、FRIDAY記者は東京・JR中野駅にほど近い『ダイソー&アオヤマ100YEN PLAZA中野早稲田通店』を訪れた。この店は100円ショップの元祖・ダイソーを運営する大創産業と、洋服の青山を運営する青山商事が合弁で設立したもの。 【画像】暑い夏に大活躍!ダイソーの『横置きできる冷水筒』 なかでも中野早稲田通店は4階建てのビル1棟がすべて売り場になっている巨大店舗だ。土曜日の午後だったこともあって、店内は老若男女でゴッタ返していた。その中の一人、40代ほどの女性客が手に取ったのは、『横置きできる冷水筒』(300円)だった。100円ショップで300円とはなかなか強気な価格設定にも思えるが、1.6Lの大容量のうえ、横置き可能で冷蔵庫のスペースを有効活用できる優れもの。ホームセンターのカインズにも同様の商品はあるものの、そちらは税込み798円とダイソーの倍以上する。記者と共に店舗を訪れたマーケットアドバイザーの天野秀夫氏が話す。 「現在、ダイソーは100円の商品を客寄せパンダにして、高価格帯商品を買わせる戦略にシフトしつつある。だから、100円ショップではあるものの『100円均一』を名乗っていないんです」 ’91年、高松に第1号店をオープンしたダイソーは100円ショップ市場のパイオニアで、現在では日本を含む26の国と地域に5350店舗を展開している。1兆円市場である100円ショップ業界において年間6249億円を売り上げる、圧倒的な王者だ。 「7月に大谷翔平(30)が飛距離144mの特大30号を放った際、打球がライトスタンドにある『DAISO』の看板近くを通過したことで日米の注目を集めました。 ダイソーは’05年にシアトルで米国第1号店をオープンさせ、現在では同国で121店舗を展開しています。1.75ドル均一のラインナップで、インフレが続いているアメリカでは大人気です。 100円ショップという業態は設備投資がシンプルで、レジ、棚、照明、そして商品を用意するだけで店を開けるうえ、撤退も楽。飲食店とは比べものにならないほど拡大させやすいんです」(天野氏) ダイソーを創業したのは、今年2月に亡くなった実業家の矢野博丈氏。もともとは日用雑貨の移動販売を行っていた矢野氏は、顧客から次々に「これなんぼ?」と聞かれたことで追い詰められ、「もう全部100円でええ!」と口にした。これが、後の100円ショップの原点だった。 「露天商から始まった会社だからか、年間6000億円以上の売り上げがあるのに、本社は広島県東広島市にある物流センターの2階にある。大企業のオフィスとは思えないほど質素で、出入り業者がオフィスに入ると、社員は全員起立して『いらっしゃいませ!』と元気よく挨拶するんです。オフィスにカネをかけるのではなく、一つでも多く商品を増やそうという精神が垣間見えますね」(小売・流通アナリストの中井彰人氏) そんなダイソーの店舗は、年々”巨大化”しているという。 「昔は街中にこぢんまりとした店舗を構えることが多かった。ところが最近では、高価格帯の商品が受け入れられつつあり、″100円のタガ″が外れた。それに伴って品揃えも増え、店舗も大きくなっていったのです。ダイソーは″100円均一″から″最強コスパショップ″に進化を遂げたと言えるでしょう」(中井氏) ◆激化する2位争い そんなダイソーの背中に追いつくことを宿願とするのは、国内に2023店舗を展開し、年間売り上げ約2200億円を誇る業界2番手のセリアだ。’94年、岐阜県に第1号店を出店し、今年で30周年を迎えた。 「高価格帯商品で利益を確保するダイソーに対し、セリアは100円均一を堅持しています。商品を製造している中国やベトナムの人件費も、原油価格も輸送費も上がっているなかで苦戦を強いられることもあった。セリアのもう一つの特徴は、女性客をターゲットにしている点です。 ’00年代、100円ショップ業界はダイソーの一強でした。しかし’10年以降、セリアが『日常を彩る』をコンセプトにした新店舗『カラー・ザ・デイズ』を大ヒットさせるなど、勢いを増した。また、プチプラのアクセサリーやコスメを充実させたことも女性客獲得に繋がりました」(流通ジャーナリストの長浜淳之介氏) 躍進の背景には、創業者である河合宏光氏(77)、’14年に社長業を引き継いだ甥・映治氏(56)の経営手腕があった。 「’04年、宏光氏体制のセリアは業界のどこよりも早くPOS(販売時点情報管理)システムを導入し、売り上げの分析を行いました。これを商品開発や発注に活かし、少しずつ影響力を増していったのです。そして、導入したPOSシステムの情報をもとに、映治氏は女性向けの店舗展開を行い、業績をグングン伸ばしていきました。 セリアの成功を受け、POSシステムを導入していなかったダイソーの矢野氏は『俺が間違っていた』と全面撤回。’18年にシステムを導入し、再びセリアを引き離しました」(前出・中井氏) かくして、セリアは業界2番手の地位を確固たるものとした。一方、セリアに追い抜かれ、巻き返しを図っているのがキャンドゥだ。1258店舗を展開し、年間で803億円を売り上げる。 「’93年に創業し、かつてはダイソーに次ぐ2位だったキャンドゥは、セリアとは対照的に″100円のタガ″を外した商品展開を行っていますが、ダイソーほどの品揃えは実現できていないのが現状。したがって、大きなフロアを埋めることが難しいんです。キャンドゥにはセリアのような尖(とが)った特徴もなく、苦戦を強いられていました。 そこでキャンドゥは、逆転の一手を打ちました。’21年末、小売大手のイオンに株の半数以上を売却し、傘下に入ったのです。肉を切らせて骨を断つ、というやつですね。イオンに魂を売ってでも、セリアを倒してみせるという覚悟を感じます。イオンの一部店舗内には100円ショップが併設しており、現状ではキャンドゥではなく他社の店舗が入っていることが多い。しかし今後は、契約更新のタイミングで、小型店舗内の100円ショップがキャンドゥに入れ替わっていくことが予想されます」(同前) これにより、キャンドゥは店舗数の増加を実現するとともに、宿敵であるセリアに大打撃を与えることができる。 「セリアは女性人気がウリですから、メイン顧客が主婦層である小型スーパーやドラッグストアに併設されていることが多かった。主婦の財布の紐(ひも)は固いので、100円均一を維持せざるを得ないわけです。ところが、キャンドゥが巨大資本の傘下で小型スーパーに出店攻勢を仕掛ける準備を着々と進めている。セリアもうかうかしていられません。地方ではセリアも店舗数を増やしていますが、以前ほどの勢いは感じられません」(同前) 今、100円ショップ業界ではかつてないほど熾烈(しれつ)な競争が繰り広げられている。 「3社はイオンやイトーヨーカドーの2階、3階のスペースに入り込みたい。イオンは現在、古い店舗を改装し、テナントを組み合わせてショッピングモールを作っている。ヨーカドーは衣料品事業から撤退してテナント化を進めています。このように大手スーパーが変革しているなかで、出店場所の確保が業績を左右します。 ダイソーは広い売り場に強く、同社が運営する300円ショップのスリーピーやスタンダードプロダクツとセットでフロアを埋めることができる。キャンドゥは親会社であるイオンに出店する。セリアは苦戦を強いられるでしょうが、100円均一をやめて200円、300円の商品を出したり、300円ショップを新たに出すようなことがあれば、競争はさらに激化するでしょうね」(同前) 1兆円規模となった100円ショップ三国志の戦火は広がるばかりだ。 『FRIDAY』2024年9月20日号より
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