「下水汚泥を肥料に」機運じわり 化学肥料の原料高騰で注目
公共下水処理の過程で生じる「下水汚泥」を肥料化する動きが注目を集めている。大半を輸入に依存してきた化学肥料の原料価格が世界的な穀物需要の高まりや輸出大国中国の検査強化などで高騰し、国が国内で代替できる資源として汚泥活用の旗を振る。県内でも農林水産省が県の終末処理場で発生する汚泥を肥料登録するなど機運がじわりと高まりつつある。 【写真】安曇野終末処理場の下水汚泥を使った肥料「アクアピア1号」
「下水中の微生物が含まれています」
真っ黒な粘土状の塊に顔を近づけるとかすかに臭う。県の安曇野終末処理場「アクアピア安曇野」(安曇野市)で生まれ、5月10日に農水省が肥料登録した「アクアピア1号」だ。下水汚泥に凝集剤を添加した後に脱水した固形物で、特段の加工処理はしていない。「下水中の微生物が含まれています」。県犀川安曇野流域下水道事務所の中沢清一副参事が解説する。 アクアピア安曇野は、松本市梓川と安曇野市の家庭、工場などの約9万2千人分の汚水を集め、処理を経て水と脱水汚泥に分離する施設。「脱水ケーキ」とも呼ぶ汚泥は年間約4千トン発生し、従来は全量を県外の業者に運んでセメント原料としていた。 国土交通省は昨年3月、都道府県などの下水道管理者に向け汚泥処理では肥料としての利用を「最優先」するよう求める基本的考え方を出した。これまでは「脱水、焼却等により減量に努めるとともに、燃料または肥料として再生利用されるよう努めなければならない」としていた。肥料原料高騰を受け、葉の成長を促す窒素や開花・結実を助けるリンを豊富に含む汚泥を代替資材として活用することを明確に促す通知だった。 国方針も踏まえ、県は下水汚泥の肥料としての可能性を模索。犀川安曇野流域下水道事務所と安曇野市の南安曇農業高校が協働で肥料効果を検証することになった。
栽培比較 汚泥に「軍配」
昨年4~10月、同校生物工学科微生物活用コースの生徒が汚泥(脱水ケーキ)をまいた区画、化成肥料をまいた区画、何もしない区画の各1アールで県独自品種のコメ「風さやか」を栽培した。各区画の収量は、汚泥が69・3キロ、化成肥料が63・0キロ、肥料なしが40・2キロで、汚泥に「軍配」が上がった。24年度は小麦やレタス、ヒマワリなど栽培品目を9種類に広げ、実際に食味も確認する計画という。 ただ、アクアピア1号が実際に活用できるようになるのは少し先のようだ。同事務所によると粘土状の脱水汚泥は水田などに散布するには扱いづらい。ペレットに加工するには設備投資や業者委託のコストを伴うため、「まずは需要を見極めたい」と説明。県有施設の街路樹や園芸で活用し、認知度を高める考えだ。コメや野菜などへの使用を想定し、汚泥に微量に含まれる重金属が土壌に蓄積しても害がないか慎重に調べる方針で、3年ほどかかるという。