【『イクサガミ』誕生秘話】「もう、この手は禁止!」超多忙の今村翔吾から原稿を掴むため担当編集がやった「意外なこと」
『イクサガミ』誕生秘話
――今村さんと言えば、戦国時代イチの悪人と言われた松永久秀の知られざる素顔と生涯を描いた『じんかん』や、直木賞受賞作で石垣職人と鉄砲職人のプライドをかけた戦いを活写した『塞王の楯』など、いま最も注目を集める歴史・時代小説家です。執筆を依頼しようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。 今村さんの作品のなかでも『童の神』がとくに好きなんです。作中でいきいきと活躍する、架空の登場人物たちがすごく魅力的なんですよね。依頼しようと思った当時は、ちょうど今村さんが講談社から骨太の歴史小説である『じんかん』を刊行した直後(2020年)。だから、次は時代小説でできればシリーズもので、と勝手に思い巡らせていました。 そうそう、今村さんは単行本で歴史小説(史実をもとに書かれた小説)、文庫書き下ろしで時代小説(過去の時代を背景にした小説。歴史小説よりフィクション性が強い)を書くという、昔は当たりまえだったけれど、現代では珍しい歴史・時代小説両刀使いなんです。 ――当時から今村さんはかなり注目を集めていましたよね。それこそデビュー3年のうちに『童の神』『じんかん』で直木賞候補に入っていました。 そうなんです。すでに非常にお忙しくされていて、とても新シリーズを依頼できる状態ではなかったというのが当時の本音です(苦笑)。正直、絶対無理だ、と思っていました。でも、そこは個人的な“縁”でゴリ押しした形ですね…。 ――それはもしかして今村さんも自身のX(旧Twitter)で何度か触れられている「手紙」のことですか。強烈で執拗、かつ凄まじい長文の手紙を送られたとか。今村さんは「もう口説くのにこの手は禁止でお願いします。笑」と投稿されていましたね(笑)。 いえ、今村さんがおっしゃっている数メートルとかそこまで長い手紙は送ってないと思うんだけどなぁ。せいぜい3枚くらいだったと思うんです、たぶん…。個人的な“縁”というのは、じつは私と今村さんは同じ奈良の中高を卒業していて、しかも互いの祖父母も京都の同じ小さな町で生まれ育っているというものです。