【『イクサガミ』誕生秘話】「もう、この手は禁止!」超多忙の今村翔吾から原稿を掴むため担当編集がやった「意外なこと」
ダメ元で手紙を書いた
――世間は狭い、というかすごい縁ですね! そうなんです。このままただ待ち続けていれば、今村さんの新シリーズの原稿を頂くのに10年はかかってしまうと思った。「こんなご縁があるのに、依頼もしないのはいつか絶対に後悔する。ダメ元でお願いしてみよう。それで断られたら、諦めがつく」と一念発起して、例の手紙を書いたんです。結果として今村さんにその気持ちを汲んでいただき、幸せ者です。 ――どれくらいで返事が来たんですか。 2020年の『じんかん』刊行後、それこそお会いするたびにお願いしていました。でも、なかなか首を縦には振っていただけなくて…。念のため言っておくと、今村さんが意地悪なのではけっしてなくて、各社から執筆依頼が殺到している中、安易に受ける方が無責任だからです。 そんな中、2020年の年末に、奈良で松永久秀に関する今村さんのご講演がありました。私も帰省がてら伺ったのですが、その帰り際に「面白い案が一個あんねん。侍たちが配られた点数を奪い合いながら、東海道を逆走する話。絶対売れると思うねんな」とおっしゃって、すぐに「それ私にください!」と思って、手紙を書いたんですよね。そしてようやく、2021年春に、正式にお受けいただきました。シリーズ1巻目の『イクサガミ 天』です。1年後に刊行されて、直木賞受賞第1作になりました。
講談社文庫出版部