日本の本格焼酎 世界で認められるには「じたばたしたほうがいい」
日本の「伝統的酒造り」が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された。九州を象徴する酒である「本格焼酎」にも追い風になりそうだ。現状と今後の海外展開の課題を、焼酎蔵元らでつくる九州本格焼酎協議会会長で天盃(てんぱい)(福岡県)社長の多田格(いたる)さん(59)に尋ねた。【聞き手・植田憲尚】 ――焼酎業界にとって登録の意義は。 ◆海外に出て行くための基礎的な地盤ができる。日本酒に比べ本格焼酎は世界で知られていない。1970年代がピークだった日本酒に比べ、焼酎は80年代や2000年代にブームがあり、海外展開が遅れたためだ。国内でも次世代の飲み手である若者へのアプローチが鈍かった。 そして今、缶チューハイなど開けてすぐ飲める安価な「RTD」(Ready to Drink)にシェアを奪われている。どの焼酎メーカーもレギュラー品の売り上げが下がり、新商品で埋めている状況だ。 登録は、世界に本格焼酎がきちんと伝わりやすくなる一歩になる。世界に認められることで、日本の若者にも本格焼酎を価値ある酒として見てもらえるようになるのではと期待している。本格焼酎の技術から派生する商品の提案の幅も広がるだろう。 伝統を受け継ぐ仕事もあるので、業界でもきっちりとやっていかないといけない。 ―-本格焼酎を世界展開するための課題は。 ◆国内では食中酒としても飲まれるが、世界では一般的に蒸留酒は食前や食後に飲む。食中酒として売り込むのはこれからだ。食前・食後酒として飲んでもらうにしても、ウイスキーやブランデー、テキーラなどがある中で、本格焼酎でないといけない理由はまだ無い。そういう意味で、焼酎業界はお客さんに必要とされるため変化しないといけない。今そのターニングポイントに差し掛かっていると思う。 ――どうしていけばいいか。 ◆私自身、17年ごろに海外のディストリビューター(卸売業者)から「おたくの焼酎はどんな料理にどんなタイミングで提供すればよいか?」と問われた時、答えに窮してしまった。そこでワインのような食事に合う酒を考え、濃い料理、さっぱりした料理それぞれの食事向けに酒質設計をし、麦焼酎を2種開発した。 本格焼酎が世界で価値ある蒸留酒として認められるには、今の時代これをやったらいいという明確な手法はない。だから言葉は悪いが、必要とされるため、じたばたしたほうがいいと思っている。試行錯誤の結果、「おもしろそう」「頑張っている」と見えること自体が、お客様に選んでもらえることにつながるのではないか。