写真家・藤塚光政インタビュー。巨匠を唸らせた日本の木造建築5選。
5.【京都】〈東山慈照寺 東求堂〉1485年設立
言わずと知れた京都の名所、銀閣寺こと東山慈照寺。将軍・足利義政が持仏堂兼別荘として建てた東求堂にある北向きの書院は「同仁斎」と呼ばれ、草庵茶室の原型とも言われていた。本書では撮影のため、足利将軍が座った時と同じように、その当時のしつらえを再現してもらったという。 「それで分かったんだけどね、文房具は普通、空間においてちっぽけなものだけど、建築と合わさった時にすごい力を持っているのが分かった。足利将軍は繊細な人だったんだと思うんです。ここに硯(すずり)があるでしょう。その硯の前に、 屏風みたいなのがあるんですよ。なんだろうと思って聞いてみたら、障子を開けた時に風に運ばれて塵が硯に入るのを嫌がったみたいでね。とても細かく整えられた空間なんです」(藤塚) 「硯屏(けんびょう)」と呼ばれる塵除けだが、その空間から見える義政公の人間性を考察し、文房具一つとっても疎かにできないと当時の撮影を振り返った。 「20代の頃、舟橋蒔絵の硯箱を撮影したことがありました。それはもちろん、ひとつの物として素晴らしいとは感じた。けれどこうして、建築という広い空間に見事に調和する文房具というものを初めて見て、なるほどねと感心しました。暮らしの一部という意味では、建築と、その中で使う小さな道具とは同等なのだと思うぐらい」(藤塚)
・『日本木造遺産 千年の時を超える知恵』
本書は前作『日本木造遺産 千年の建築を旅する』に続く、雑誌「家庭画報」での連載の書籍化第2弾。建築探偵・藤森照信の文章と藤塚光政による写真と撮影記、そして構造学の観点から木造建築を捉えた腰原幹雄によるコラム。3人のスペシャリストの視点からの文章で、計32の建築を読んで楽しむことができる一冊だ。 連載を続けるにあたって3者の交流が増えたことで、取り上げる木造建築の幅が広くなったと藤塚は振り返る。世界を見渡しても稀有な文化である日本の木造建築。前作と今作で合わせて55の建築を巡っているが、次はどの“木造遺産”へ向かうのか見逃せない。
『日本木造遺産 千年の時を超える知恵』(世界文化社)
著者:藤森照信 藤塚光政 発売日:2024年6月8日 定価:2,970円(税込)
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