写真家・藤塚光政インタビュー。巨匠を唸らせた日本の木造建築5選。
3.【埼玉】〈小野家住宅〉 推定18世紀初頭設立
本書には寺社仏閣などの大規模なもの以外の木造建築が登場する。そのうちの一つが、国の重要文化財である所沢市にある開拓農民が手作りした家、小野家住宅だ。関東の建築を探そうとなり、埼玉県の古住宅を探し回り、この建築に辿り着いたという。 「ここはまず、垂直の柱がない。あえて曲がった柱を用いながら、それでいて構造的に成立していて、独特の空間が生まれています。だけど、“曲がった柱を使おう”と思いついたところで、すぐに適した柱が揃うものではない。きっと、前からとっておいてたんだろうね。大工か建主かですよね。どっちかが変わった人だったか、両方変わった人だったのか。屋根は、藤森さんの好きな草屋根でね(笑)」(藤塚) 藤塚の言う通り、本書でも藤森はこの屋根の頂上にある草屋根について「今は絶滅危惧種なのに、よくぞ東京の近郊にこれだけ立派なのが生き残っていてくれた」と感動を綴っている。
4.【香川】〈栗林公園 掬月亭〉推定17世紀後半設立
香川県高松市の栗林公園に佇む〈掬月亭〉。座敷と庭を連続させた空間構築は20世紀初頭のモダニズムを感じさせる。畳の辺の長さを基準に柱の間隔などが定められ、精緻に計算された建築と言える。 「栗林公園と掬月亭は日本庭園の中ではダントツだと思っています。背後の山、手前の池、そして〈掬月亭〉の佇まいすべてでもって、“これぞ”と感じさせる。」と藤塚。掬月亭の趣深さを振り返りながらも、写真に対するこだわりを語る。 「庭と建物の一体感を出すためには、コントラストが強く出てしまうとよくないと思って、朝の5時ごろに撮りに行きました。同じ理由で梅雨時を選んだことも覚えています」(藤塚) 風景のみならず建築を撮ることに意識を向けたとき、季節と時間といった条件はさらに複雑になる。 「銀杏なんかが色づきはじめる秋には、絶対に行かないですよ。情緒は良いけれど、建築と向かい合う時には邪魔なんだよね。だから冬枯れの時とかも良いね。紅葉と日本建築という画が決まりすぎててもつまらないから。観光客だらけだし」(藤塚)