写真家・藤塚光政インタビュー。巨匠を唸らせた日本の木造建築5選。
1.【奈良】〈春日大社 御本殿〉768年設立/2016年造替
写真家・藤塚光政、建築史家・藤森照信、構造学者・腰原幹雄の三者による『日本木造遺産 千年の時を超える知恵』が発売。雑誌「家庭画報」連載企画から書籍化された本作から、藤塚光政がインタビューで語った5つの木造建築をご紹介します。 【フォトギャラリーを見る】 20年に一度の大規模修繕を終えた春日大社御本殿。御神体である御蓋山(みかさやま)の麓にある、全国1000社の春日神社の総本山であり、「古都奈良の文化財」の一つとして世界遺産にも登録されている日本の聖地だ。『日本木造遺産』では一般に入場できない春日大社の御本殿の、貴重な写真が藤塚光政の撮影と藤森照信による解説により隅々まで記録されている。 「一番好きな神社は春日大社。これほどの“めでたさ”を感じさせるってのがね。伊勢神宮は式年遷宮といって社殿を違う場所に作って御神体を移すけど、ここは“移さない”。20年に一度、御神体である御蓋山の上の同じ位置に作り替える“式年造替”をするわけです。だからこそ周囲の環境を含めて、1260年前と同じ景色を前にしている感覚がありますよね。タイムスリップというか、“ここに同じ景色があり続けている”という感動のある、得難い体験です」(藤塚) 本書にある撮影記では、2016年9月に春日大社の宝物殿改修を担当した建築家の弥田俊男との縁で第60回目の式年造替直後の春日大社を撮影した時の感動を克明に語っている。
2.【岡山】〈閑谷学校 講堂〉1670年設立
日本最古の公立学校と言われる岡山県の特別史跡、旧閑谷学校。圧巻の佇まいの講堂と、未来に残そうという意思を感じさせる機能的かつ美しい建築は藤塚光政と藤森照信の両者を唸らせた。 「どこの藩でも藩校というものはあったわけですが、藩士の優秀な子だけではなく、一般の藩民のためにこのパブリックスクールが作られた。それは、並のことではないですよ。しかも近隣の藩からも生徒を受け入れていたと聞いて、驚きました。ここは本当にね、例えば二日酔いだとしてもすぐに治っちゃうような空間です(笑)」(藤塚) 本書の撮影記では、閑谷学校を設立した池田光政と名前が同じであることから、普段の撮影よりも心なしか丁寧な対応を受けた気がする、という微笑ましいエピソードも。また腰原は、江戸時代以来、姿を変えずに残っている理由について、堅牢な本瓦が用いられ、かつ水はけに配慮が行き届いた屋根によるものが大きいと考察している。