物流危機を「宅配問題」に矮小化するテレビ報道 “メシウマ”視聴者と物流業界の広報不足が招く決定的誤解とは
広報活動を怠ってきた物流業界
物流は「産業の血液」と呼ばれ、社会を支える重要なインフラであり、人々が健全で健康的な日常を送るためには欠かせない存在だ。しかし、これまで物流業界はあまりにも黒子に徹しすぎていて、自分たちの活動をアピールすることが足りなかった。筆者はよく 「昭和・平成初期の時代に物流業界がもっと広報活動に力を入れていたら、現在の物流クライシスももう少し違った形になっていたのではないか」 と感じている。その結果が、 「宅配しか取り上げてくれないテレビニュース」 だ。もしテレビでトラック輸送の大半を占める企業間物流を取り上げようとすると、 ・製造業の仕組み ・物流のビジネス構造 を説明するだけで相当な時間がかかる。それでは視聴者が飽きてしまい、視聴率も取れないだろう。つまり、「宅配しか取り上げてくれない」テレビの現状は、物流業界が広報活動を怠ってきたツケともいえる。だからこそ、物流従事者は「宅配しか取り上げてくれない」と嘆くのではなく、 「ついにテレビでも物流が報じられるようになった」 と喜ぶべきだと思う。 本音をいうと、筆者も宅配だけに焦点を当てられることには不満を感じる。さらに、「あなたは、そんなに物流クライシスを訴えたいのか?」といわれたときは、正直、怒りを覚えた。
もっと伝えるべき物流の重要性
企業間物流のニュースがテレビで日常的に報じられるようになるためには、まず宅配のように一般の人々にもわかりやすい物流から伝えていく必要がある。そして、そのためには、テレビのディレクターなどに物流の基本をしっかり理解してもらうことが重要だ。 ちなみに、筆者はテレビに出演する際、テーマに沿った説明資料を作成する。この資料作りは、ときには記事を書くよりも手間がかかるが、物流の重要性を理解してもらうためには欠かせない作業だ。 一方、ラジオではもっと深い内容を話せることもある。辛坊治郎氏の番組に出演した際、台本では筆者が説明すべきだった物流の2024年問題の説明を辛坊氏が代わりに行い、「というのが『物流の2024年問題』の説明ですが、専門家から見てどうなんですか?」といわれたとき、筆者は 「さあ、もっと本質的なことを話してくださいよ」 とチャンスをもらったように感じ、背筋がゾクゾクした。 日本社会が直面している物流クライシスに立ち向かうためには、人々の理解と協力が必要不可欠だ。だからこそ、物流に関わる人々だけでなく、一般の人々にももっと物流に関心を持ってほしい。実際、物流は皆さんの生活に深く関わっていることを、まだ多くの人が気づいていないだけなのだ。
坂田良平(物流ジャーナリスト)