物流危機を「宅配問題」に矮小化するテレビ報道 “メシウマ”視聴者と物流業界の広報不足が招く決定的誤解とは
「かわいそうなドライバー」が求められる理由
なぜ、テレビは「宅配」ばかりを取り上げるのか――。 テレビ側は「宅配が多くの視聴者にとって身近な話題だから」と答えるだろう。それ自体は間違いではなく、重要な理由のひとつではある。しかし本音は「視聴率が取れるから」だ。 余談だが、筆者が出演した宅配をテーマにした番組では、視聴者からの質問や感想が普段の倍以上寄せられた。宅配問題は視聴率が取れるテーマなのだ。さらにいえば、宅配を取り上げることで、 「再配達に苦しむかわいそうなドライバー」 の実態も自然に取り上げられる。これは視聴者にとって最適なメシウマのネタとなる。 再配達がドライバーを苦しめるという図式はわかりやすく、共感を呼びやすいが、視聴者にとっての実害は少ない。再配達を減らさないと、今後ECや通販の翌日配達が維持できなくなるかもしれない。しかし、翌々日、あるいは3日後など、注文から発注までのリードタイムが長くなった場合、本当に困る人は限られるだろう。実際、 「配送を急がない人向けオプションの利用意向は87.1%」(MMD研究所) という調査結果もある。ECや通販で注文した商品が明日(または今日)届かないと生活に支障が出る場面は、そう頻繁に起こるわけではない。ちなみに、 「数万円もする個人宅用宅配ボックスを設置しろ」 と呼びかけると、視聴者からの反発が急に強くなる。これは、視聴者が“自己犠牲”を感じ、メシウマの範囲を超えたことで、心理的防衛反応が働いた結果だと思われる。 正直なところ、ニュースも「娯楽の一部」として消費されるという側面があるため、これが現実なのだ。
物流への理解不足が引き起こす誤解
もうひとつ、宅配ばかりが報じられる理由には、世間一般の物流に対する理解不足がある。 筆者は物流事業者でのインターンシップのディレクションを行っているが、参加した高校生や大学生に 「君たちが知っている運送会社の名前を挙げて」 と聞いても、ヤマト運輸や佐川急便以外の名前が出ることはほとんどない。それどころか、 「君たちがコンビニで買うおにぎりも、物流がなければ君たちの手元には届かないんだよ」 と説明すると、初めて気づく生徒や学生も少なくない。このような物流への理解不足は、若者だけの問題ではない。 ある物流事業者の採用担当者が高校の進路指導部を訪ねたとき、教師から 「物流ですか。だったら、トラックドライバーの募集ですね」 といわれたことがあった。この教師は、「物流 = トラックドライバー」という考え方をしていて、 ・倉庫作業員 ・事務職 などが物流事業者にいることを想像できなかったのだろう。 ある小売業の部長は、世の中の荷物の大半はヤマト運輸と佐川急便が運び、その他の運送会社はこの2社の下請けだと思っていた。「日通もありますよ」と伝えると、 「もちろん例外もあるでしょう」 と返されたが、いまだにその意味がわからない。 余談だが、物流業界の関係者から 「テレビはヤマト運輸など、大手事業者のニュースしか取り上げない」 と不満を聞くことがある。これは、中小企業の取り組みがメディアに取り上げられにくいという事情もあるが、知名度が低い企業のニュースは、視聴率が取れないため報じられにくいという現実もあるのだろう。