【紀州のドン・ファン】新たな“売人”が証言した覚醒剤取引現場にいた「もうひとりの女性」の意味
■ 覚醒剤の取引現場近くにいたお手伝いさん Xは取り引きの現場について詳細を供述している。 検察 かなり取り引きには注意をしていたんですよね。 X 罠として襲われる可能性があるかもしれないので、(車の中で)身構えていました。 検察 コンビニにはお客さんはいましたか? X 若い男性客が数人いましたが、ヤバそうな奴らではなかった。若い女性(早貴被告)が出て来て取引現場にする暗がりに行った後に、コンビニから出てきたのは例の家政婦のばあさんだった。 なんとXは現場に野崎氏宅の家政婦の大下さん(仮名)が姿を現していたというのだ。田辺出身の大下さんの本当の住まいは東京にある。病気の父親の世話をするために月に1週間から10日ほど帰省するときには、旧知の野崎氏の身の回りの世話をしながら、野崎氏宅のゲストルームで寝起きしていた。 なぜこの証言が重要なのか。 早貴被告が覚醒剤ないし氷砂糖の取り引きに行った4月7日の夜は、野崎氏は仕事で出張中であり、自宅を留守にしていた。そしていくら近所とはいえ、深夜に真っ暗な取引場所まで行くのは運転免許を持っていない早貴被告にとって面倒だったに違いない。そこで大下さんに頼んで車で送ってもらったという可能性が考えられるのだ。 もちろん早貴被告は大下さんに「覚醒剤を買いに行く」などとは説明しないだろう。「コンビニまで送って」などと頼めば大下さんも承知してくれたはずだ。 だとすれば、このとき早貴被告は“覚醒剤”取引の現場を、大下さんに感づかれることを恐れていたはずだ。「社長(野崎氏)に覚醒剤の入手を頼まれちゃった」などというセリフは、大下さんはもちろん、アプリコ関係者も一切言聞いていない。早貴被告は、誰にも知られないように細心の注意を払って取り引きをしたはずだ。
■ 「大下さんに3000万円」発言の真意は そして野崎氏は5月24日に急性覚醒剤中毒で亡くなった。 その翌々日の26日、早貴被告は突然大下さんに対して「社長から伝えられていたんです。社長は『ワシが亡くなったら1000万円大下さんに上げてくれ』といっていたみたいだけど、私には『大下さんには3000万円上げてくれ』と言われていました」と言い出したのだ。遺言状もないので、野崎氏の遺産から大下さんにおカネが渡ることは考えにくいが、早貴被告はその可能性を示唆したのだ。 この件について早貴被告や大下さんから事件直後に何度も話を聞いていたジャーナリストの吉田隆氏は指摘する。 「5月24日、ドン・ファンの死亡推定時刻の前後に大下さんは野崎氏宅に帰ってきています。さらに覚醒剤の取引現場近くにも大下さんがいたということであれば、大下さんは何か決定的なシーンを目撃していた可能性がある。もし早貴被告が犯行に関わっているのだとしたら、大下さんの口封じのために1000万円ではなく3000万円をチラつかせたのかも知れません」 大下さんは現在健康状態がすぐれないようで証人として出廷はしていないが、彼女もこの事件のキーマンであることは間違いない。 28人もの証人の証言により、事件の詳細が徐々に明らかになってはいるが、不可解な点もいくつか残っている。果たして、それまで覚醒剤を購入したこともなかった早貴被告のような素人が、ネットをさっと検索しただけで容易く覚醒剤を購入できるものなのだろうか。誰かが早貴被告と売人とをつないでやった可能性はないのだろうか。そして売人Xが15万円で売ったのは本当に氷砂糖なのか。 裁判はすでに早貴被告の被告人質問に移っている。次のレポートはそちらを中心にお送りする。
神宮寺 慎之介