海外投資家の日本株売りが過去最大1.5兆円のなぜ?背景には配当金の課税対策という期末特有の要因。金融相場到来の中、石破総裁が誕生。相場の行方は?
●海外投資家の9月第2週の現物株の売越額が1兆5425億円と過去最大に! 前回のコラムでは『FRBが大幅利下げ決定、今回の金融相場で点検すべき4つのポイント』と題して、ついにマーケットが金融相場入りしたこと、そして点検すべき大事なポイントについて解説した。利下げ前の9月18日の日経平均株価は3万6380円だったが、9月27日時点で3万9829円と3449円高の9.5%上昇となっている。非常に力強い動きであり、金融相場到来を感じさせる。 そうした中、サプライズのニュースが入ってきた。東京証券取引所が発表した9月第2週(9~13日)の投資部門別売買動向において、海外投資家による現物株の売越額が1兆5425億円と過去最大になったのだ。 「えっ、海外投資家って日本株上昇の一番の原動力ではなかったですか? 太田先生」との質問が飛んできそうだ。さよう、海外投資家は2023年4月から猛烈な勢いで日本株を買っている。東証が日本企業に対して「PBR1倍割れは許さん」「経営効率を上げて企業努力をしろ」というお達しを3月末に出し、多くの企業が真剣に取り組み始めたからだ。従来は政権交代が起こると「日本企業が変わることに期待する」との理想論で海外投資家が日本株を買う時代があったが、すべてが空振りに終わった。しかし「今回は違う」と。 ●海外投資家は2013年度と2023年度は約8~9兆円規模の大規模の買い越し 実際、海外投資家の日本株買い(現物株)はどう推移してきたか? まず2023年度の動向を整理してみよう。2023年4月~2024年3月までの1年間の海外投資家の買越額は7兆6906億円。前年度の1兆8000億円の売り越しから大転換し、アベノミクス相場が始まった2013年度(9兆5387億円)以来の高水準だった。アベノミクス相場の肝は「3本の矢」である金融緩和、財政出動、成長戦略。この3本立てで日本経済を活性化させる戦略だ。海外投資家がこれに飛びつき9兆円を超える買い越しとなったのが2013年度だ。それ以来となる10年ぶりの買い越しが2023年度だった。その牽引役は欧州投資家だ。 そして2024年度。4月第1週の海外投資家の買越額は史上2番目の1兆1821億円に達した。まさにロケットスタート。4月第1週の日経平均株価は3.4%安の1377円下落という冴えない週であったにも関わらず、海外投資家は押し目を積極的に買ったことになる。堅調な企業収益、世界市場での割安感、経営効率の改善、コーポレートガバナンス変革などが注目の的であるが、グローバル投資家において日本株の組み入れ比率はいまだにアンダーウェート。どんどん上昇する日本株式市場を目の当たりにして、まさにFOMO(Fear of Missing Out)の様相を呈し、「取り残される恐怖」「買い遅れるな! 」という心理が日本株買いを加速した。「ベンチマークに勝つためには日本株だ! 」。海外投資家はまさにこのような状況だった。 ●9月の巨額売りの背景には配当金の課税対策という期末特有の要因がある それが9月第2週において海外投資家による売越額が1兆5425億円と過去最大になったのだ。一体何が起こったのか。もう海外投資家は日本株を諦めたのか? 非常に重要なイベントなので解説したいと思う。「巨額売り」の背景には、海外投資家による配当金の課税対策という期末特有の要因があるからだ。 9月末に配当権利確定日を迎える企業が多い。その前に海外に拠点を置く投資家たちは一旦、現物株を手放してしまう。現物株の口座が海外にあると、9月末に権利が確定する配当金に対して日本と海外で二重に課税され、還付などの事務手続きが面倒になる問題がある。そこで9月末を前に国内口座に移し替えるクロス取引と呼ばれる取引が行われる。例えば、外資系証券会社が英国から東京の口座へ現物株を移すと、統計上は英国口座の売りが「海外投資家」、東京支店の買いが「証券会社の自己売買部門」にそれぞれ計上される。9月第2週は証券自己が9040億円と比較的大きい買い越しになっており、こうした取引の存在を示唆している。 もう一つの方法は「現物売り&先物買い」の裁定取引である。先物を保有していれば海外口座での2重課税の問題は起こらないというわけだ。実際、海外投資家による先物の買い越しは4444億円と大きな金額となっている。これで海外投資家の行動が読める。「現物売越額1兆5425億円」≒「証券自己買越額9040億円+先物買越額4444億円」である。 配当金の権利確定日が集中する3月末や9月末にかけては、海外勢の現物株「売り」が統計上出やすくなる。2023年は海外勢が3月第2週に1兆1275億円、9月第3週に9131億円をそれぞれ売り越し、年間における週間での売越額の1位と2位だった。逆に期末通過後は元に戻す逆の取引で「買い」が膨らむことが多い。したがって、急に海外投資家が日本株売りに走ったというわけではない。税法の弊害がもたらす統計的なカラクリが出たというわけである。 ●自民党の新総裁に石破茂氏が選出。ネガティブサプライズで円高・株安に さて、自民党の新総裁として石破茂氏が選出された。木曜日の1055円高に続いて金曜日の日経平均は908円高、しかも高値引けでの力強い動きとなった。自民党総裁選における第1回目の投票でアベノミクス後継者である高市早苗氏が1位となったことで史上初の女性首相誕生への期待が高まり、金利低下・円安に伴う「高市トレード」が活発化。仕掛けの主体は海外短期筋のヘッジファンドによるものだ。ドル円も146円台まで円安が進んだ。 だが、決選投票において石破氏が高市氏を破るサプライズの結果となり、決まった瞬間に為替は一気に142円台へと急伸、そして日経先物は2200円安の3万7630円へと急落。この1週間の上昇分をすべて吐き出す形となった。石破首相誕生で「早期利上げ、法人税増税、金融所得課税強化」というタカ派的緊縮政策が行われるのではないかとの「石破トレード」が展開されている。株式市場での石破氏の評判は悪く「高市氏で決まり」のシナリオがほぼ形成されていたため失望感は大きいようだ。ちょうど3年前の岸田文雄首相選出後に見られた「岸田ショック」を彷彿とさせられる。とは言え、これもヘッジファンドによる短期的仕掛け売りである。今後のマーケット展開を注意深くウォッチしたい。 ●10月3日にWebセミナーを開催。金融相場の初動点検と個別銘柄を検証! さて、太田忠投資評価研究所とダイヤモンド・フィナンシャル・リサーチ(DFR)がコラボレーションして投資助言を行っている「勝者のポートフォリオ」。2大特典として毎月のWebセミナー開催とスペシャル講義を提供している。10月3日(木)20時よりWebセミナーを開催する。テーマは『FRBは大幅利下げ決定、金融相場の初動を点検する』。投資戦略だけでなく、個別銘柄の分析もおこないつつ話を進めるため必聴の内容だ。できるだけ多くの皆さまにご参加いただきたい。10日間の無料お試し期間を使えば誰でも参加が可能だ。 そして、スペシャル講義では『ポートフォリオ理論』に続き、太田流『ポートフォリオ実践』がスタートした。資産運用においてポートフォリオ運用のノウハウを知っておくことは必須であり、個人投資家に身に付けてもらうことが目的である。また、太田流『新NISA活用法』もすでに完結した。700名の会員たちはすでにバッチリ新NISAに取り組んでおり大きな成果を出している。資産運用を真剣にお考えの皆さま、「勝者のポートフォリオ」で一緒に大きく飛躍しましょう。ぜひ、ご参加をお待ちしております。 ●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもDFRへのレポート提供によるメルマガ配信などで活躍。
太田 忠
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