オン とアンダーアーマーの決算が浮き彫りにした、スポーツ市場の光と影
オンの成長要因と今後の計画
このスイスのシューズブランドは連勝中だ。オンは2023年から2026年のあいだに純売上高を倍増させる計画を立てている。同社はランニングシューズのクラウドモンスター(Cloudmonster)やクラウドサーファー(Cloudsurfer)、クラウドランナー(Cloudrunner)のおかげで「市場シェアを拡大している」と説明した。また実店舗拡大も進めており、今年2月にはオレゴン州ポートランドに米国最大の店舗をオープンしたばかりで、6月中にはパリに2号店をオープンさせる予定だ。 オンの主な成長要因は、D2Cの好調な売上にある。同社D2C売上はこの四半期に39%増加し、現在オンのD2Cチャネルの売上は総売上の37.5%を占めている。パリオリンピックの開会式前に同社は新商品を発表する予定であり、同地域内にある2店舗がオリンピック期間中に顧客にとってのハブになることを期待している。 上述のコペッティ氏はオンの共同創業者であるとともに共同チェアマンであり、「我々が特に誇りに思っているのは、この成長がかつてないほど高い収益性で達成されていることだ」と投資家およびアナリスト向けの発表のなかで語った。「2024年度第1四半期の粗利益率が60%近くに達したことが、最高級のグローバルスポーツブランドになるという当社の戦略のパワーを裏付けている」。
アンダーアーマーの「再構築」計画
一方アンダーアーマーはここ数年財政的に混乱し、経営陣も何度か交代した。2023年度第4四半期の純利益は前年同期比96%減の660万ドル(約10億3600万円)だった。 2023年、アンダーアーマーはホテル業界大手のマリオット(Marriott)の元幹部であるステファニー・リナーツ氏を新CEOに任命した。しかし1年も経たないうちに、同社の創業者であるケビン・プランク氏がCEOに復帰するとの発表があった。プランク氏は今年3月にCEOに復帰し、6月には新たな最高顧客責任者と最高技術責任者を迎える予定だという。アンダーアーマーの最高執行責任者であるコリン・ブラウン氏と最高プロダクト責任者のリサ・コリアー氏は、今後数カ月以内に同社を去る予定だ。 「この段階においてアンダーアーマーがこのような状況になるとは予想していなかった」とプランク氏は決算説明会で述べた。「とはいえこの混乱を機に、ブランドとビジネスを再構築し、アスリートや小売客、そして株主に向けて、アンダーアーマーの可能性に目を向け、信じてもらえるだけの確固とした根拠を示していくつもりだ」。 またメリーランド州ボルチモアを拠点とする同社は決算説明会のなかで、再構築計画の一環として不特定数の従業員をレイオフする計画を発表した。そして商品ラインナップを見直し、イノベーションを最優先にするプロセスを進めており、そのために今後18カ月でその基準に満たない25%のSKUを削減する予定だ。この再構築計画には、レイオフする従業員への退職金も含めて約7000万ドルから9000万ドル(約109億円から141億円)の費用がかかる見込みである。 サイズモアキャピタルのサイズモア氏によると、アンダーアーマーはここ数年アイデンティティの確立に苦労しているという。「彼らは中途半端な立場から抜け出せずにいる」と同氏は話す。「経営陣はこれを自覚しており、再構築計画の理由のひとつでもある。この宙ぶらりんな状態から抜け出して、より明確にブランド価値を高めようとしているのだ」。 情報分析プラットフォームのPlacer.aiで分析研究責任者を務めるR.J.ホットビー氏は、アンダーアーマーとオンの戦略の違いにはスポーツビジネスにおける両社の成熟度が反映されていると指摘した。この2ブランドの今後数カ月の予測はそれぞれ異なっているが、同氏によると、両ブランドともより広範なマクロ経済の動向の影響を受ける可能性があるという。 「4月と5月は、インフレなどのマクロ的圧力による消費者の買い控えが目立った。これが、これらのブランドが依然として向き合わなければならない最大の課題だ」。 [原文:On and Under Armour’s earnings highlight diverging fortunes in the athletic space] Maria Monteros(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:都築成果)
編集部