石若駿とMELRAWに訊く、最強音楽プロジェクト「Answer to Remember」とは一体何なのか?
アンリメ、ミレパ、個々人とコミュニティの成長
―お二人ともミレパにも参加してきましたよね。あちらも当時は同窓会っぽいプロジェクトで人脈的にもかぶるところがありましたが、アンリメとの間には関係性はあるんですか? 石若:さっきも言ったように、「みんなで集まって何かやろう」って話をしたときに、大希(常田)もその場にいたってことですよね。 MELRAW:「みんな」の指している部分がたぶん違う。駿の思う「みんな」と大希の思う「みんな」の輪が似てるようで少し違うっていうか。 石若:そうだね。 ―常田さんはイントロに通ってなかったでしょうしね。でも、お二人の周辺の音楽を聴いてきた人たちには「同じ時期に同世代のすごい連中が集まって、なんかやってんな」というふうに映っていたと思うんですよ。僕もそうだし。 MELRAW:そうかもしれない。大きな違いとしてはアンリメのみんなは刹那快楽主義っていうかやっぱその一夜のライブミュージックに賭けてる感じがあるよね。 石若:快楽主義かも。 MELRAW:それこそジャズミュージシャンとしてのリビドー。聴こえはポップかもしれないけど、根柢はジャズだから。やっぱりミレパの場合だと「野に放たれる瞬間」があるんですよ。「お前らここで行ってよし、その他はおとなしくしてなさい」みたいな感じ。アンリメに関しては、石若駿という広大なプレイグラウンドの中でみんなが「やったー!」みたいな感じ。それぞれの良さがあるよね。 石若:そうだね。よかったなって思うのは、同じ時期にみんなで突出できたこと。例えばRHファクターがあって、SFジャズ・コレクティヴが出てきて、ジョシュア・レッドマンのエラスティック・バンドもいて、みたいな。ある時期の象徴というか、後々「こういうことがあった」って語られるような感じっていいですよね。世に投じられたうちのひとつになれたんじゃないかなとは思います。 ―そこにはWONKやCRCK/LCKS、中村佳穂や君島大空もいて。そういうコミュニティがあるんだなってリスナー側も悟っていくなかで、それをわかりやすく見せてくれる「全員集合」的なものとしてアンリメとミレパがあったというか。 石若:そうですね。今こうやって同じタイミングで、アンリメもミレパも第二章が始まっているのも面白いし。 MELRAW:今回のアンリメに関しては「大暴れをパッキングしました」だけじゃなくて、作品としてレベルアップしたと思います。 ―前作は「録って出し」みたいな感じもしましたが、今回は安藤さんのプロデュースがすごく大きいように思います。どのタイミングでプロデューサーとして関わり始めたんですか? MELRAW:一緒にやっていくうちに(自分の役割に)名前をつけたほうがいいか、ってなっちゃったというか。前作でも、黒田卓也さんが参加したバージョンの「GNR」の後半にあるゴスペルっぽい展開も、駿から「なんかできないかな?」って言われてアイデアを出したりしていたし。前作から駿のなかには明確なビジョンがあった。でも、「ビジョンはあるけど、それをどう実現したらいいかわからない」ってときに「それはこうじゃないか」「こういうのはどう?」みたいな感じでやっているうちに、密に関わるようになりました。 石若:僕は言語化するのに苦労するところがあって、大袈裟にいうと「ブワーっと、ダーっと、ワーってやってください!」みたいなタイプなんです(笑)。でも、MELRAWは「これはこういうところがこうなっているから、こうするべきだよ」みたいな感じだから、現場でも他の楽器を客観的に聴くようなバンマス仕事をしていることが多い。 MELRAW:アンリメってプレイヤー集団になりすぎちゃうんですけど、制作現場では俯瞰してる人がいなきゃいけないんですよね。プレイしながら全体の音像を俯瞰することって、ただのセッションではない状況じゃないですか? だから、トラックメイクをする観点の俺みたいな人がいて、エフェクト、EQ、プラグインのことを考えて、そこのアイデアも出せて、っていうのは前作から変わったことだと思います。 石若:「こうしたいけど、やり方がわかんない」みたいなことを全部わかってるひとがいるのはすごく助かった。それに自分もちょっとわかるようになってきた気がするんですよ。エフェクターやプラグイン、コンプ(レッサー)やEQの使い方、ディレイやリバーブのこともちょっとずつ。 ―サウンドのクオリティがすごく上がりましたよね。 MELRAW:今回、ポストプロダクションにかなり時間かけたよね。けっこう突き詰めたので。 石若:そう。気づいたら朝、みたいな MELRAW:まず、全体を今っぽい音像でやることを目指しました。プレイリストに入ったときに、アンリメがアコースティックすぎてカシャカシャに聞こえるとか、そういうことがないようにマッシヴな状態でミックスしたり、足りないところにTいろいろなサンプルを貼ったりもしました。そういうちょっとした楽曲の演出に口を出してましたね。場面転換のときのエフェクトとか、「KWBR Kuwabara (feat. ermhoi)」のサックスソロの最後のスライスしていくところだったり。 あとは吉川さん(STUDIO Dedeのエンジニア)もがんばってくれました。吉川さんもWONKや(常田)大希、僕たちと付き合っているうちに、だんだんジャズエンジニアだったらやらない手法もやってくれるようになった。俺らが「これやって」「あれやって」と言っているあいだに吉川さんも技が増えてるんですよ。 ―King Gnu、ミレパ、WONK、君島大空がみんな使っているレコーディング・スタジオがあって、そこのエンジニアも同じコミュニティのミュージシャンと一緒に成長していると。 MELRAW:そうですね。 ―例えば、ディアンジェロやザ・ルーツ、J・ディラがいたソウルクエリアンズは、エレクトリック・レディランドというスタジオを拠点というか溜まり場にして、そこにはラッセル・エレヴァードというエンジニアがいて、みんなで実験に明け暮れながら、その成果をコミュニティ全体にシェアしていた。それに似たコレクティヴ感がDEDEを中心にした日本のシーンにもある、ってことですよね。 MELRAW:まさに。みんなDedeを使ってるもんね。 石若:そうそう。「KWBR Kuwabara」の途中に、サンダーキャットを彷彿とさせる部分があって。「その音ってどうやったら作れるんだろう」って考えていたときに、僕らは5階のミキシング・ルームで作業をしてたんですけど、たまたまその日、地下にBREIMENの高木祥太がいたんですよ。祥太が挨拶しに来てくれたときに「サンダーキャットみたいなエフェクト持ってる?」って聞いたら「あるよー」って。それを借りたりもしたよね。 MELRAW:あったね。 ―今のシーンを見てると、BREIMENも同じ地平にいますよね。そのコミュニティ全体で一緒に前に進んでいる感じが『Answer to Remember II』にも入っていると。そして、そのコミュニティ内のいろんなところに顔を出してきた安藤さんが特に進化している。 MELRAW:それはありますね。 ―いつの間にかプロデューサーまでやってるわけですから。 MELRAW:僕はそういうのが好きなんですよ。レコーディングにいちプレイヤーみたいな形で呼ばれたとして、自分のレコーディングが終わったらとっとと帰っちゃえばいいんだけど、そのまま残って見てると勉強になるんです。現場で録られた自分のサックスが加工がされるのを居残って見たりしているうちに、だんだん意識がついてきたというか。