藤原ヒロシが語る「欧州クルマ旅」の愉しみ
「さあ、車に乗って今日はどの国に行こうか」一瞬耳を疑うセリフだが、ヨーロッパでならそんな旅も実現する。藤原ヒロシは、そんな旅を長年愉しんでいるという。 【写真を見る】ヨーロッパ、陸路の旅の様子。
「クルマと旅」と言えば、この人をおいて他にいないだろう。藤原ヒロシこそは、車の旅のエキスパートだ。藤原がスノーボードのシーズンになると、自らハンドルを握り、国内数多の冬山へ向かうことはよく知られているが、彼曰く車の旅の醍醐味を存分に味わえるのはヨーロッパの国々を巡ることにあるという。次々と現れる異なる国の風景をフロントガラス越しに見るのが好きだと言う藤原ヒロシの言葉から、車が纏う「軽快なリリシズム」が浮かび上がる。 ──藤原さんは、車でヨーロッパを横断するの が「恒例行事」となっていると聞きましたが。 藤原ヒロシ(以下、藤原) 確かに結構な頻度で、その都度コースを少しずつ変えながらヨーロッパで車の旅を楽しんでいますよ。 ──ヨーロッパを車で旅することのどういう点が魅力なのですか? 藤原 まず、ヨーロッパとの比較対象として、アメリカを車で走ってもつまらないというのがあって(笑)、アメリカって車で何時間も走って、次の街に着いても景色はまったく同じなんですよ。同じような街並みの中に、同じようにチェーン店のレストランがあって、「これって、デジャヴ?」と言うくらい景色が変わらない。一方、ヨーロッパは少し走ると国境を越えて、景色もガラッと変わる。例えばミラノで車を借りて、そこからハイウェイに乗って、しばらく行った先で降りると、そこはもうスイスの山の中、とかね。街並みも看板の文字も違うものになっていて、移動するにつれ景色だけでなく文化の変化も感じられる。そこが良いんです。そんなふうにして、1週間で11カ国を回ったこともあります(笑)。 ──えっ!? 本当に車の旅が好きなんですね。 藤原 やっぱり、飛行機だと空港での待ち時間が退屈だし、搭乗してからも、多少は周りを気にしないといけないでしょう。車なら好きな音楽を目一杯聴けるし、一緒にいる友達とも好きなだけおしゃべりできる。それに、夜中だろうと早朝だろうと好きな時間に出発できたりと、時間を自由に使えるのも車の良いところ。 ──何年くらい前からそういった旅を? 藤原 始めたのは30年くらい前かな。その時は当然スマートフォンも無いから、新しい街に着いたら、まず、ガソリンスタンドで給油ついでに地図を買って。確かドイツから出発して、その後、ポーランド~オーストリア~ハンガリーというルートだったと思う。ドイツから先はまだEUに加盟していなくて、それぞれの国境で入国のために車で検問所に並びました。 ──東ヨーロッパがお好きなようですね。 藤原 僕がヨーロッパに求めているのが、華やかさより憂いを帯びた薄暗い雰囲気だからかな。なので、クロアチアに寄る時もレイブパーティが盛んなアドリア海に面するドブロブニクとかではなく、ザグレブのような古い街を選びますね。 ──「いつどこで何を見よう」といった、旅の予定は立てないんですか? 藤原 予定は立てません。日本に帰る日にちだけ決めて、それまではヨーロッパの中を思いつくままに旅をする感じです。 ──目当ての場所やイベントがあるのではなく、車での移動自体が「目的」なのですね。 藤原 そうですね。なんとなくスロバキアに向かって、着いた晩にチェックインしたホテルで、次の行き先を考える。「そういえばプラハにいる友達は元気かな?」と思えば、翌日はプラハに移動。そんなふうに思いつくままに移動できるのが車での旅の醍醐味だと僕は思っているので。 ──なんとも楽しそうで興味深いのですが、これから「欧州クルマ旅」にチャレンジしようという人へのアドバイスはありますか? 藤原 まず、3、4人のグループで行くのが良いですね。途中で運転を交替できるし、車も1台で済むので。その場合、荷物が嵩張ると車に積みきれなくなるので、なるべく少なめにして、できればラゲッジはトランクに押し込めるようにハードケースではなく、アウトドアブランドから出ているようなソフトケースを。当然、車種はセダンかSUVですね。あと、ハイウェイの通行料や制限速度といった法律やルールが国ごとに違うので、事前に調べておいた方が良いでしょう。確かスイスではスピード違反の罰金がその人の収入の多寡に応じて変わる制度で、年収の何パーセントだかを支払わされるとか。これは聞いた話だけれど、「スピード違反で罰金数千万円」ということも、スイスではあるらしいです(笑)。 ■藤原ヒロシ デザイナー、ミュージシャン 1964年生まれ。その審美眼はファッション、音楽はもちろん、時計、車、アート、食と多方面に及ぶ。Fragment design主宰。
文・鈴木哲也 写真・梶野彰一、藤原ヒロシ 編集・岩田桂視(GQ)