現役東大院生の昆虫研究者が語る「頭を使う」虫採りとは? 戦略と実践で楽しみながら学ぶコツ
――よく10年も諦めずに探し続けましたね。 水の中って簡単に目で見ることができないじゃないですか。「人間が見えない世界」に長靴を履いてタモ網を持って踏み込んでいく……。ある意味やみくもに網を水中で振って引き揚げ、網の中にいないのを確認してはまた突っ込む、というのを繰り返し、のちに「いた!」と発見できた時の嬉しさは、他の昆虫採集では味わえないポイントだと思っています。ゲンゴロウ採集は、自ら行動し継続することの大切さや、それが報われた時の達成感など、学ぶことが多かったですね。
相手を知り、頭で戦略を立てて体で実践…「頭を使う」虫採りのコツ
――なるほど、苦労するからこそ学びながら工夫し、採れたときの達成感が格別になるんですね。現在、牧田さんは東京大学大学院に進んで虫採りを続けていますが、その魅力はどんなところにありますか。 一番はどこでも楽しむことができる点だと思います。森のような場所でなくても、一見自然が少なそうな住宅街や、陸ではなく水の中だって昆虫を見つけることができます。とはいえ、ただ単に網を振っているだけで昆虫が採れるものでもなく、狙う相手のことを知っておく必要があります。 例えば、飛べない昆虫には落とし穴トラップを設置する、樹液に集まる習性を持つならどの木の樹液によく集まるかの知識を頭に入れておく必要がありますよね。相手に合わせた戦略を立てて、体を使ってそれを実践していくことに面白みがあるのではないでしょうか。
――情報を分析して戦略を立て、実行する。虫採りを楽しみながら、学力と体力も向上しそうです。最後に、牧田さんが特に心掛けていることを教えて下さい。 昆虫の「採れた・採れない」に関わらず、その結果をもたらした理由を探り、自分の中で明確にしておくことが大切だと思っています。 実践できることとしては、記録をとったり、標本に残したり、いろいろな蓄積をしておくことで次の採集に活かすことができますよね。 もちろん図鑑やネットで知識を取り込むのも大事なことですが、生体に触れてその生命力を感じたり、自ら立てた採集計画に沿って昆虫を見つけたり、実際に昆虫と向き合うことで虫採りのスキルや経験値が上がっていくのだと考えています。 *** おじいちゃんのミヤマクワガタに魅了された少年は、体だけでなく頭を使った虫採りを続けたからこそ、現役東大院生の昆虫研究家に成長したのだろう。 牧田さんの昆虫図鑑『昆虫ハンター・牧田 習と親子で見つけるにほんの昆虫たち』では、ただ虫を紹介するだけでなく、牧田さんがこれまでの経験で得た採集や探索のコツを虫ごとに紹介したり、虫の魅力を語るコラムも盛り込まれている。これが次の“昆虫ハンター”を生む一冊になるのかもしれない。 牧田 習 1996年10月14日生まれ。兵庫県宝塚市出身。オスカープロモーション所属。幼少の頃に出会ったミヤマクワガタに魅了され、昆虫好きの道へ。北海道大学理学部数学科に進学したのち、現在は東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程で学ぶ。 昆虫研究者としても活躍し、新種も発表。子どもたち向けの昆虫教室などのイベントも開催し、タレント活動を通して昆虫の魅力を発信する。 NHK「ダーウィンが来た!」や日本テレビ「アナザースカイ」など多数のメディアで活躍中。 [文]辰巳出版 協力:辰巳出版 辰巳出版 Book Bang編集部 新潮社
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