透明な詩情が漂う倉俣史朗の個展へ|青野尚子の今週末見るべきアート
自主制作によるシリーズの一つに「引出しの家具」と題された収納家具やソファなどがある。彼はおもちゃを探して引出しを開ける子どもはおもちゃ以外のものを探そうとしているのではないか、引出しには秘密がある、といったことを言っている。たくさん並んだ小さな引出しを一つひとつ開けていく、そのわくわくする気持ちは大人になっても消えることはない。 光そのものが形になったかのような家具もある。《光の椅子》《光のテーブル》は乳白色のアクリル樹脂を成形し、その中に蛍光管を仕込んだもの。椅子やテーブル全体がぼうっと光って、照明器具としても使える。触れることができないはずの光に座る、そんな不思議な体験ができる。 倉俣はインテリアデザインの仕事を始めた当初から「透明な家具」に魅せられていた。彼は透明なカプセル型の什器や、ハンガーパイプ以外の部材をすべて透明アクリル板で作った洋服ダンスに服を掛けて、服が浮いているように見える家具をデザインしている。
《硝子の椅子》は板ガラスどうしをフォトボンドで接着した、ガラスのみでできた椅子だ。座るのがためらわれるけれど、実際にはしっかりと体を支えてくれる。倉俣は地上に生きる者は誰も逃れることができない「引力」と、そこから解放された無重力という二つの力を意識していた。透明なガラスが生み出す浮遊感は束の間であっても重力の存在を忘れさせ、その場に触れることのできない別の次元を出現させているかのようだ。
透明なガラスにヒビを入れた家具は過去に栄えた都市の廃墟や遺物を思わせる。3枚重ねた強化ガラスの中心にあるガラスに衝撃を与えてヒビを生じさせたものだ。ヒビの部分に光が反射してもう取り戻すことはできない、過ぎ去った時間がきらきらと輝く。
倉俣のデザインには詩情とユーモアが漂う。アクリルの中に真っ赤なバラを封じ込めた《ミス・ブランチ》、鳥の羽がひらひらと舞い落ちていくかのような《アクリルスツール(羽根入り)》、針が7本ある時計や文字盤が半分消えてしまった時計などには彼独自の物語性を感じさせる。