東西統一から欧州の大国へ 独メルケルはコールの遺産をどう使うのか
ロシア・プーチン大統領とは不思議な縁も
東西ヨーロッパの「西の横綱」がメルケル首相だとすれば、「東の横綱」は間違いなくロシアのプーチン大統領だろう。興味深いことに両者には「東ドイツに住んでいた」という共通点がある。プーチン大統領は政界進出する前、旧ソ連の情報機関KGB(国家保安委員会)に諜報員として勤務。KGBは1991年12月のソ連崩壊直前に解体され、FSB(連邦保安庁)とSVR(対外情報庁)の2組織が誕生するが、プーチン氏は1998年7月からFSB長官を約1年間務めている。プーチン氏はKGB時代の1985年から1990年まで、旧東ドイツのドレスデンに駐在し、東ドイツが崩壊していく様子を目の当たりにしている。 そのころ、メルケル氏は大学時代に専攻していた物理ではなく、化学の研究を前述の科学アカデミーで行っていたが、東ドイツ情勢が大きく変わり始めた1989年に同アカデミーを退職し、政治の世界に足を踏み入れることを決断している。 ニューヨーク在住のロシア人ジャーナリストで、2012年にプーチン氏の半生を記した『顔のない男』を上梓したマーシャ・ゲッセン氏によると、ドレスデン時代のプーチン氏の「表の肩書」は通訳者であったという。プーチン氏は大統領になって間もない2001年にドイツを訪れ、ベルリンの連邦議会で演説を行っているが、演説は途中からドイツ語で行われた。ドイツの国会議員らは同時通訳のヘッドフォンを外して、プーチン氏の流暢なドイツ語に耳を傾けている。
ウクライナ問題後にロシアに対して行われた経済制裁をめぐっては、メルケル政権は制裁を維持しながらもさらなる強化には消極的な姿勢を見せた。これは国内企業から上がる制裁緩和を求める声を配慮したものとみられる。トランプ政権がさらなる対ロシア制裁に動いていることに対しても、冷静なイメージが強い彼女にしては珍しく強い調子で批判している。EUという枠組みがあるものの、西ヨーロッパのリーダーは事実上ドイツであり、ロシアやアメリカとの関係もメルケル政権の動向で大きく変わる可能性がある。 メルケル首相の4選は確実視されており、政界の師であるコール元首相に並ぶ長期政権が視野に入る。東西ドイツの統合から27年。ドイツの存在感がさらに増す中、“ドイツの母”はどのような政治バランスでヨーロッパをリードしていくのだろうか。
------------------------------ ■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う。ウェブサイト