「あんた何様ぁ!?」厳しくも愛のあるオネエさんの言葉に感動 ASD当事者がゲイバーに行ったら…
自分のことをズバリと言い当てられ…
喜んでKさんの隣の席に座ったかなさん。ですが、内心では「どうして私のこと、呼んでくれたのだろう?」という戸惑いもありました。 するとKさんは、かなさんの目を見つめながら、一つ一つ言葉を紡ぎ出すように、ぽつぽつと話しはじめました。 「あんた、短文書く人でしょ。それも言い切り型じゃない…『みんなはどう?』と提案するような文章。これはあなたの天命ね。人とは違う運命をもっている――」 かなさんは日々、Xを通じて発達障害関連の投稿を行っていますが、その時はそんなことは話していません。なのに、Kさんはそれを見透かすようなことを言ってきました。その後も、かなさんの素性をズバズバと言い当てていきます。かなさんの内面やこれからの行く末、前世にまで話は及びました。 それは、多くの人と出逢い、酸いも甘いも噛み分けてきた、Kさんの人間性が成せる業だったのでしょう。たくさんの経験を積み重ねることによって、その人の内面を見抜く眼力が身についていたのかもしれません――。 そんな話を5分ほどつづけた後、Kさんは急にかなさんに呼びかけました。 「あんた、次の店行くわよ」 常識的に考えると、出逢ったばかりの人に誘われるなど、大丈夫だろうか――と躊躇してしまうところでしょう。しかし、Kさんの凄さにすっかり心を奪われていたかなさん。こんな貴重な機会をみすみす捨ててはならないと、「いいんですか?ありがとうございます!」と、二つ返事で了承したといいます。 そして、互いに会計を済ませて店を出ました。1軒目の滞在時間はわずか15分程度だったそうです。 ――Kさんはどうしてかなさんに声をかけたのでしょう? かなさん:おそらくですが、私が店に入ってきてから、服装や入店してきた時の雰囲気などから、「面白い子が入ってきたわね」としばらく私のことを観察していたようです。
厳しくも愛のあるアドバイスと、やはりASD当事者には難しかった「テキトー」
Kさんとやって来たのは、よりディープな雰囲気のバー。ここで、かなさんは自身が抱えてきた大きな悩みについて、Kさんに話します。かなさんの悩み――それは、凝り固まってしまった自分自身の内面に対する葛藤でした。 「ひとことで言ってしまえば“良い子”と“焦燥感”です。『人の期待に応えたい』と相手の期待を勝手に背負ってしまうことと、自分に対して『これくらいは出来るよね?』という期待を無限に上げ続けてしまうことです」(かなさん) ASDを抱え、幼い頃よりどうしても周囲から浮いてしまう日々を送ってきたかなさん。笑われたり、仲間外れにされたり、眉をひそめられたりするなかで、環境にどうにかして溶け込もうと、やがて優等生や良い子の仮面を被るようになったといいます。その結果、完璧主義的な思考や向上心、うまくいかない時の自責傾向が強くなり、それは大人になった今でも解消できない問題となって、心の奥にくすぶり続けているのでした。 ずっと内面に抱えていた深い悩みを打ち明けたかなさん。ところが、それを聞いたKさんは、意外な反応を示しました。 「あんた何様ぁ!?」 と、店中に響き渡るような大声で、かなさんを一喝したのです。店にいる人たちがこちらをうかがってくるのも構わず、「なんとおこがましい!!」と顔をしかめながら続けます。 自分がどれだけできると思っているのか、あんたに貧困問題や戦争を解決する力があるのか、無力で未熟な小娘に過ぎないじゃないか、そんなのは人のためではなくマスターベーションにすぎない、自分のものではない重荷まで背負う必要なんてそもそもないのにどれだけ勘違いしているのか――紡がれる言葉は辛辣ではありましたが、しかし同時にKさんなりの想いを感じさせるものでもありました。 「思い込みや履き違えを捨てて、余計な重荷を下ろし、もっと身軽に生きられるよう、Kさんは私に発破をかけてくださったんだと思います」(かなさん) 愛のあるアドバイスをくれたKさん。続けて、かなさんにこのように言いました。 「あんた分かった!?じゃあ、相談料5000円ね!!」 それは、Kさん流の冗談、もしくはあえて含みをもたせた表現だったのでしょう。しかし、ASDの特性上、人の言葉を真に受けてしまいやすいかなさん。つい、本当にお金を差し出してしまい…。 「私がこれ受け取っちゃったら商売になっちゃうでしょうが、馬鹿にしないで!!」 またもKさんに怒られてしまったといいます。困ったかなさんは、今度はバーの店員さんに助けを求めました。すると――。 「あー、なんかテキトーに返しといたらいいんだよ」 と、その店員さん。“適当な対応”も、ASDの方にとっては困難なジャンル。かなさんは酒場でのコミュニケーションの難しさを痛感したといいます。 濃密な体験について紹介されたかなさん。一連のポストのリプ欄にも、多くの反響が寄せられました。 「オネエさん、なんか優しい…こんなエールもあるんだな」 「ゲイという普段ならあり得ない方向から叩かれることで、また一つ免疫ができて強くなれたね!」 「いや、そこのお店、めっちゃ行きたい」 「これはゲイバー特有のノリの良さ」 「一杯おごるよ!それでよろしくっとか返せたら良いのですが、なかなかそのタイミングではパッと出ないですよね」 ちなみに、かなさんは実際どうしたのかというと――。 悩んだ末、2軒目の会計は自分がもつことにしました。 Kさんはそれを普通に受け入れてくれた様子で、「ごちそうさま」と言ってくれたそう。その選択は間違っていなかったようですね。 このように、空気を読むことが苦手なASDの方々も、場に相応しい行動がまったくできないわけではありません。自分なりに考えたり、経験を積み重ねることによって、正解にたどり着くことができる可能性もあるのです。 かなさんにとっても、今回のことは人間関係を学ぶ良い機会になったようですね。 その後、Kさんはタクシーで帰っていったそう。互いに連絡先を交換することもなく、まさにかなさんにとって、“一期一会”となりました――。 ◇ ◇ ASDなど発達障害をもつ方にとって、バーはハードルが高い場所の一つであるかもしれません。ですが、日常とはまた異なる世界に飛び込むことは、自身にとって大きな学びや人生経験になる可能性もあります。もしご興味があれば(もちろん無理のない範囲で)、一度バーの扉を開いてみてはいかがでしょうか。今回のかなさんのように、素敵な出会いが待っているかもしれません…。 貴重な体験談を伝えてくれたかなさん。2024年2月に発達障害と診断されて以降、Xやnoteを通じて、発達障害に対する理解を広めるための発信を行っています。 「“ふつうのひと”とはちょっと違う人たちがいるということを、許容していただけるとありがたいです」(かなさん) (まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・竹中 友一(RinToris))
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