星野源「心が静かな時しか書けない文章」 新作エッセイで見せた「心の内側」を聞く
■約7年半ぶりの新作エッセイ集 星野源の新作エッセイ集『いのちの車窓から 2』が9月30日に発売された。本書は雑誌『ダ・ヴィンチ』に2014年12月号からスタートした人気連載をまとめた内容で、第一弾の『いのちの車窓から』(2017年3月刊)は、累計発行部数45万部突破(電子書籍含む)の大ヒットを記録した。 【撮り下ろし写真】星野源 インタビューカット 約7年半ぶりの第2弾となる書籍では、どのような内容となったのか、星野源本人にインタビュー。創作についての話や恩師との別れや、日々の感情などの心の内側について、しっかりと言葉を選びながら真っ直ぐな姿勢で語っていただいた。 ■音楽の世界に導いてくれた東榮一さんの存在 ――冒頭の「新年」の章に、〈忘れてはいけない存在への挨拶と、さよならするべきものとの別れ〉という言葉がありました。そのどちらも達成できたとき、初めて年が明けたと思えたと。今回のエッセイにも、その二つがたくさん詰まっているような気がしました。 星野源(以下、星野):今回、生前にお世話になっていた方たちのお話を、書き下ろしでいくつか入れたんです。ふだんエッセイを書くときに「このテーマにしよう」と意気込むことはあまりなく、なんとなく書き出して流れで決まっていくんですが、その方たちに関するエピソードだけは、書きたいと最初から思っていました。たとえば、僕を音楽の世界に導いてくれたディレクターの東榮一さんは、ご自身も表に出てもいいような人だったのに、自分よりも作品をという気持ちが強くて、いつも裏方に徹していた方で。 ――星野さんが忘れないようにするため、だけでなく。 星野:そうですね。もちろん僕にとってすごく大事な方だから、というのもあるけれど、世の中にその存在を残したかったという気持ちも大きいですね。 ――その東さんから「源くんはこれだと思う」と託された〈孤独な鳥の条件は五つある〉から始まる文章に、読んでいて胸が衝かれる思いでした。誰とも分かち合えない孤独がある、と自覚したうえで、誰かを愛したり愛されたりしていく過程で、星野さんが孤独を少しずつ溶かしていくような読み心地も、本作からは感じていたので。 星野:このエッセイの連載が始まった頃、活動があまりにも忙しくて、毎日見る景色がめまぐるしく変化していたので、自分を機関車にみたて、その車窓から映る風景を書き残しておこうというコンセプトで『いのちの車窓から』というタイトルをつけました。だから自然と、出会う人々について書くことが多かったんです。でも1巻と違うのは、今作では途中からコロナ禍となり、人と会えない時期が続いてしまった。勢いよく流れていた車窓からの風景が、急に静止してしまったんです。 ――〈誰も乗ってくることのない無人駅で、延々と停車し続ける電車の中に座っている〉と本書にも綴られていました。 星野:はい。景色が変わらないから、これまでのように真新しいエピソードも容易には手に入らない。でもかわりに、自分の心がどんどん変化していくのを感じたんですよね。外出することができなくても、人と会うことができなくても、自分自身は日々どんどん変化していく。その心を内省的に見つめる時間が増えたことは、エッセイにも反映されていたと思います。それまでは、コミュニケーションのなかで見つけた自分にとって大事なものを残していくって感じだったけど、今回はそれに加えて、自分を見つめて、向き合って、その心模様を書いていったという感覚があります。 ――「「出会い」は「未来」である」という章もありました。書かれたのは、コロナ禍前のことです。 星野:自分で書いたその言葉を、コロナ禍を通じてより実感しましたね。たとえばこうした取材の場には、立ち合いの人が何人かいるけれど、僕と言葉をかわすことのない人も中にはいるわけです。でも、そのうちの一人がこの場にいないだけで、その後の僕の人生は全く違うと思うんですよね。それくらい、人と出会うということはそれ自体があたりまえではなくて、いろんなものを左右する大事なものなのだと。そういったちょっとした出会いから、とても大事な出会いまで、この本には色々と書いています。