1892年創業の老舗せんべい店、1種類のみ焼いてきたが…進化に挑む4代目が行き着いた「キャラメル味」
1892年(明治25年)の創業以来、1種類のみのせんべいを焼き続けた宮崎県日南市飫肥の菓子店「おきよせんべい松家」が今年、新作のキャラメル味を作り出した。創業以来、132年ぶりの新商品は店を進化させる挑戦で、4代目の小玉聡さん(46)は「伝統を大事にしつつ、常においしい商品を追求したい」と意気込んでいる。(金堀雄樹) 【写真】松の形をした「おきよせんべい」。オレンジ色のパッケージがキャラメル味
松家は、小玉さんの曽祖母・キヨさんが創業。キヨさんは、日露戦争の講和条約締結に尽力した外交官・小村寿太郎のいとこで、20歳の頃、職業講習でせんべいの作り方を学び、25歳で店を始めた。
松をかたどったせんべいは「おきよさんのせんべい」と評判になり、太平洋戦争の食糧難で一時休業したが、戦後に再開して今に至る。一般的なせんべいより餅を作る工程などで手間がかかるため、店は人気があったこの1種類に集中してきたという。
店内では、せんべいを十数本の鉄製の型で焼き上げる。型は改良を重ねたが、焼き方は創業時のままだ。小玉さんは毎朝、3代目の父・和則さん(78)、母・節子さん(74)と3升5合の餅をつく。約60年前に流通したという半自動の餅つき器でつきあがった餅を一口大に切り、鉄製型に入れて薄く焼き上げる。せんべい二つの間に、蜜を挟むと完成。口に入れると皮がフワッと溶け、優しい甘さが広がる。
飫肥地域は城下町で、せんべいは贈答用として親しまれる。予約の多い年末は1日に作る約1200枚のほとんどが予約で埋まることも。ネット販売では、上京した日南出身者からの注文も多いという。
小玉さんが店を継いだのは2021年。高校卒業後に上京し、大学を経て会社勤めをしていたが、長男の誕生を機に帰郷した。古里で子育てを希望したことと、「ここまで続いたのにもったいない」と家業への思いがあった。
店を継いだ小玉さんは、商品に進化を加えていった。ザラメと上白糖を主原料とする蜜は、時間の経過で砂糖の粒と水分が分離しやすい課題があった。スダチ果汁を加えることで風味を損なわず、トロッとした食感を維持することに成功した。