養老孟司少年は「小1で大人の本を読んでいました」
ハードな暴力小説も
『人生の壁』では、大人になってから読んだ本、最近読んだ本の中で印象に残ったものを引き合いに出しながら論を進めているところが多数ある。取り上げられている中で異色の一冊は『神は銃弾』(ボストン・テラン著、田口俊樹訳、文春文庫)だろう。犯罪小説の一種であるこの本はかなりハードな暴力描写が続く1冊。養老さんはそこからアメリカの持つ一つの性質を感じ取ったという。 「全編通して詩的な文章による激しい暴力描写が続きます。銃弾が神というタイトルからしてすごい(原題は“God is a Bullet”)。アメリカという国には、良くも悪くも暴力に関する知識や経験が蓄積されていることがよくわかります。こういう小説は日本人にはなかなか書けないな、と感じたものです」 ここから話は、暴力に関する知見のない日本が軍隊を持つことの難しさ、危うさへと発展していくが、本の話からはずれるのでここでは割愛しておこう。
心地よい場所を探すべし
一方で、人生を考えるうえで重要なヒントを与える一冊として取り上げているのが、料理研究家の土井善晴さんの著書『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)。同書の中の「暮らしにおいて大切なことは、自分自身の心の置き場、心地よい場所に帰ってくる生活のリズムを作ることだと思います。その柱となるのが食事です」という一文を引用したうえで、こう述べている。 「これを私は“自足の思想”と呼んでいます。自分自身が幸せな状態をつくるのが一番大切だという考え方です。政治や社会に関する大きなテーマを考えるにしても、個人のレベルで基本にすべきは、この考え方ではないでしょうか。 自分にとって居心地のいい状態を知っておくのはとても大切です。これを誰もができているとは限らない。自分自身の限界とも関係するため、見極めるのが難しいのです。感覚をおろそかにすると、わからなくなります。 “自分自身の心の置き場、心地のよい場所”で暮らすことが自分自身の精神にも良いはずなのですが、つい別のほうに頭を使って、不満やストレスを抱えている人がいかに多いことか。わざわざ面倒なことに首を突っ込み、腹を立てている。 その点、よほどネコのほうが賢いのではないでしょうか。自分にとって一番気持ちのいい状況に身を置くようにしています。それを見つけたらひたすら寝転んでいる」 *** 気持ちのいい場所で寝転んで本を読むことこそ幸せという人も多いことだろう。『人生の壁』には、養老さんから「厄介な人生を軽く生きてみる」ためのアドバイスが多く詰まっている。 養老孟司 1937(昭和12)年、神奈川県鎌倉市生れ。解剖学者。東京大学医学部卒。東京大学名誉教授。1989年『からだの見方』でサントリー学芸賞受賞。2003年の『バカの壁』は450万部を超えるベストセラーとなった。ほか著書に『唯脳論』『ヒトの壁』など多数。 協力:新潮社 新潮社 Book Bang編集部 新潮社
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