「ドラフト注目」富士大・麦谷祐介が一度は失った「野球」と「自信」を取り戻して、「夢」を叶える日
「自分はチームに必要がない」
「新チームになって、チームとして全力疾走を徹底してやろうと決めた。本人もやるぞ、やるぞと先頭に立って引っ張ってくれていた。ところが、ある練習試合の前の練習中に少し気が抜けてしまったのか、彼がいの一番で力を抜いて走っていた。 仲間にすごく影響力のある子ですし『おまえがそれをやったらダメだろう!』と叱りつけました。そのときは私も感情的になってしまってノックバットを地面に叩きつけて折ってしまった。本人もシュンとしていましたね」 麦谷はその試合でサヨナラ3ランを放ったが、仲間への申し訳なさからなのか、喜びを表現することはなく、うつむいたままダイヤモンドを一周したという。 「試合の後、叱った意味がわかっているかという話をしました。本人は『こんなことをして自分はチームに必要ない人間だと思って。先生にもあんな行動をさせてしまった』と言って号泣していました。麦谷が高校に顔を出してくれる度に『普段は強がっているくせに、すぐ泣くもんな』とネタにするんですが、本人も『もうやめてください』と笑っています。 ほかにも教えたことがすぐできてしまうので、それを定着させる努力というところでは、できるときとできないときがあって厳しく言うこともありました。でも、こっちが本気だとわかれば、ちゃんと思いを受け止めてくれる子です。特に人の思いに応えようとする、そういう男気みたいなものをすごく持っている。彼とは本当にいっぱい思い出があります」 その一方で技術的な指導に関してはあれこれ教えるのではなく、長い目で見て1つの悪癖解消だけに終始したという。複数球団のスカウトが見に来ており、プロ志望届を出せば指名される可能性が十分にあったという才能を大きく花開かせるために平石監督が麦谷に教えたこととは。 つづく記事「『ドラフト上位候補』富士大・麦谷祐介の驚異の『天分』と恩師との号泣『ナイスガイ大作戦』」では、初練習で麦谷が見せた衝撃の走りとスローイング、3年夏の感動秘話について平石監督が明かします。
週刊現代、鷲崎文彦