ノートルダム寺院はなぜ燃えたのか、そして、なぜ世界に衝撃を与えたのか
フランスのパリ中心部にあるローマ・カトリック教会の大聖堂、ノートルダム寺院が大規模な火災に見舞われました。教会の尖塔部分が崩れ落ちる映像に衝撃を受けた人も多いのではないでしょうか。建築家で、文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋氏が、ノートルダム寺院の建築物としての特徴と、火災が世界的なニュースになった背景について解説します。
石造建築がなぜ燃える
パリのノートルダム寺院が火災となり、一部の尖塔も含め屋根のほとんどが燃え落ちたようだ。 誰にでも知られる優美なゴシック様式の聖堂が紅蓮(ぐれん)の炎に包まれる映像は、世界に大きな衝撃を与え、再建に向けて多くの寄付が集まっているという。哀しいそして美しい話である。 日本人の多くは「石造建築がなぜ燃えるのだろう」という素朴な疑問をもったに違いない。しかしほとんどのマスコミはこれに答えていない。法隆寺金堂の火災や、金閣寺の炎上消失と同様の扱いをしているところもあった。 僕の知り合いで、「ゴシック建築特有の外壁を外側から抑える梁のようなもの(フライングバットレス)は木造で、それが燃えたのかと思った」という人もいる。 これを機会に、ゴシック様式とはどういうものか、なぜ屋根が燃えたのか、なぜこの火災がこれほど世界の人々に衝撃を与えたのかを説明してみたい。
ゴシック様式とは何か
ゴシック様式とは、建築を基本として、絵画、彫刻、音楽などにも当てはまる、12~15世紀に流行したヨーロッパ中世の象徴ともいうべき芸術様式で、「ゴート族」に由来する言葉だという。建築としてはその前のロマネスク様式と同様、古代ローマのバシリカ(長方形平面の集会所)から発達した、カトリックの聖堂様式であり、ロマネスクに比べればヨーロッパ北部に多い。 ロマネスクは主として壁の構造であるが、ゴシックは石造建築でありながら骨組み的な構造となっているのが特徴だ。より高く天に向かう上昇感を出すためと、ステンドグラスを透過する光の面積を多くしてファンタジックな物語空間を演出するためと思われる。