誰かの背中をポンと押せる物語をーー小さな田舎町の主婦が、「物書き」になるまで
書きたいという熱さえあればやっていける
原稿を書くのは、自宅のダイニングテーブル。パソコンを開きっぱなしにして、家事の合間に思いついたら座って書く。書くことはいつも楽しい、と笑顔で語る。 「家族を送り出した後、帰ってくるまで、だいたい8時から18時までを、執筆と家事の時間と決めています。土日はよっぽどのことがなければ書きません。書けるときに書いて、書かないと決めたら、好きな作家の本を読んだりして過ごします。夜は晩酌タイムなので、絶対に書けません(笑)」 大のビール党。だが、ダイエットを考えて、最近は「糖質ゼロビール」一辺倒だとか。本屋大賞受賞の知らせを受けた日も、糖質ゼロビールを飲んだ。 さらに気分転換したいときは、ビールを飲みながらのゲーム。今ハマっているのは「天穂のサクナヒメ」だとか。昔から大のドラクエファンで、エンディングを観るのが寂しいのでクリアはしないと決めている。 「もともとこうして、田舎で引きこもりみたいな生活をしていますので。インプットも、小説を読んだり、子どもと一緒にアニメを見たりとか、本当に日常のささいな部分から掘り下げていきます。外部へ取材ということもあまりしないですし。でもこうして地方で、主婦で、私のように変わった経歴の人でも(笑)、書きたいという熱さえあればやっていけるんだなと思いますね」 デビュー直後は田舎の書店に自身の本があまり並ばなかったこともあり、家族の反応は薄かった。最近はメディアへの露出も増え、今回の本屋大賞にはさすがの両親も驚いたという。 「家族は、私の本は1行も読んだことがないんですよ。まだ認めてくれていないのかな?と思っていたら、仏壇に私の本が並んでいるのを見て、一応は応援してくれているんだなって。でも、私自身、まだまだ自分のことを作家だと名乗れないですね。職業は、“物書き”だと言っています」 --- 町田そのこ(まちだ・そのこ) 作家、自称物書き。1980年福岡県生まれ。「カメルーンの青い魚」で、第15回「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞。2017年に同作を含む『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』(新潮社)でデビュー。他に『ぎょらん』(新潮社)、『うつくしが丘の不幸の家』(東京創元社)、『コンビニ兄弟―テンダネス門司港こがね村店―』(新潮文庫neo)がある。『52ヘルツのクジラたち』(中央公論新社)で2021年本屋大賞を受賞した。