名伯楽・内田順三も驚いた「毎日素振り1000回」完遂。才能よりも努力で大成した選手とは?
今シーズン、日本野球機構(NPB)にファーム(2軍)リーグ限定で新規参戦した「くふうハヤテベンチャーズ静岡」(以下、くふうハヤテ)。同時に参戦した「オイシックス新潟アルビレックス・ベースボール・クラブ」は独立リーグの老舗球団だったが、くふうハヤテは母体も何もない、まさしくゼロから立ち上げられたチームだ。 開幕から約3ヵ月が過ぎた6月末、くふうハヤテに密着取材し、野球人生をかけて新球団に入団した男たちの挑戦を追った。 前回に続き、1983年のコーチ転身以来、広島、巨人で多くの一流選手を育ててきた名伯楽、内田順三コーチの奮闘を紹介する。(全15回連載の10回目) ■「作り・育て・生かす」内田コーチの理論 1983年に指導者に転身して今年で42年目。数々の名選手を育て、大勢の教え子と向き合ってきた内田コーチは、指導者としてどんな信条を持っているのだろうか。 内田コーチの著書『打てる、伸びる!逆転の育成法』(廣済堂出版)にはこう記されている。 ≪生涯を通じて選手以上に学び続けること、先入観を持つことなく球団の宝である選手の可能性を信じ続けること、「作り・育て・生かす」の段階を間違えないこと。プロの世界に来る人間は、何かしら秀でた能力を持っている。それを伸ばし、開花させるのが私に与えられた役割だ≫ この指導過程についてあらためて聞くと、こう解説してくれた。 「『作る』というのは、ドラフト指名されて入団した選手――肩が強い、足が速いといった身体能力の特徴はあっても、まだプロ野球選手として1軍に昇格できる技術の特徴、強みが見えていないような、特に高卒新人に対して一から作り出すイメージです。 『育てる』というのは、『作る』選手よりは一段階上、早い段階で1軍でも使えそうな才能を持つ選手に対して、定着して活躍できるレベルまで向上できる理論をともに探り、技術に磨きをかける手助けをすること。 そして、『生かす』というのは、大学や社会人といったアマチュア時代にトップクラスの成績を収めて活躍して、即戦力としてドラフト上位で入団したような選手が、プロの水に慣れる手助けすることです」 広島時代は育成に重きを置く球団だったため、「作る」もしくは「育てる」選手が大半で、大型新人や大学、社会人出身の即戦力は限られていた。巨人時代は毎年のように「生かす」タイプの選手が入団してきた。 内田コーチは「作る」「育てる」「生かす」のサイクルを昭和、平成、令和と時代を超えて、NPBという最高峰の舞台で実践し、今なお活動する唯一無二の存在だ。 ■「毎日素振り1000回」を唯一やり遂げた選手 次に、プロ入りして伸びる選手について聞いた。 「間違いなくハートのある選手。指導者として技術で教えるべきことは、10あれば3割くらいです。自分自身と向き合えて、他人ともきちんと接することができる選手。きちんとした立ち振る舞いができて、相手の話も聞いた上で自分自身で考えて試すことができる選手は伸び代があります。良い子でも萎縮してしまう選手は、それはまた別のアプローチを考えますが、ヤンチャでもいざここでというときは自分を貫いたり、がむしゃらに取り組めるような選手は間違いなく伸びます。 30%くらい技術を教えて、その後はいろいろ話し合って、『くそ、それじゃここまでやってやるわ!』と発憤するように仕向けたりもします。皆ある程度、技術や才能を認められたから、プロ野球の世界に入れた選手ですからね」