「京都、こわくない?」長年暮らしたNYから縁もゆかりもない京都に移住した理由
なぜ京都を選んだのか
日本のどこに帰ろうか? オットと私は、連日ふたりで家族会議。 緑いっぱいの自然に近いところ。美容師というオットの職業柄、ある程度の規模の都市で、東京にも2~3時間で通える立地がいい。 うーん、だったら軽井沢はどう? 友人夫婦が暮らす、長野の松本もいいかも? あちこち思い浮かべつつ検討するなかで、私が提案したのが、京都だった。 「え? 東京まで遠いじゃん」 難色を示すオットに、 「たった2時間ちょっとだよ! (新幹線だけど)」 身を乗り出し、誘致を働きかける私。 京都は、ニューヨークから日本へ一時帰国するたび足を運んでいた、私の偏愛シティである。千葉のベッドタウン育ちにとっては、その歴史や文化は神秘的ですらあり、心くすぐられる古都。山並みが望め、鴨川が街中を悠然と流れている風景にも惹かれた。 住み慣れた街、ブルックリンとどこか似ているところにも好感がもてた。高層ビルが少なく、古くからの住宅が残り、頭上に広がる空が大きいこと。流れる時間が、たおやかで、ゆるやか。ローカルな個人店が逞しく営業し、活気と輝きを放っていること。住宅の一階部分にパン屋やカフェ、ギャラリーなどが入居し、通りをぶらぶらするだけで未知の店に遭遇できる。だから街歩きがだんぜん楽しいこと。オットは、「へー!」と、がぜん興味を示した。 そしてなにより京都は、食べものがおいしい。鯖寿司、町中華、焼肉、うどん、あんこ&餅……、ツバを飛ばしながら京の美味をオットに熱く説いたところ、私と同じく食いしん坊な彼は、すぐに心を決めた。 さっそくオンラインで美容院向けの物件を探し、昭和レトロな2階建てにダメもとで申し込みをしたところ、大家さんや保証会社の審査にあっさり通って賃貸成約。オットの仕事場が確保できたことで、京都への移住がするりと決定したのだった。 京都出身でもなく、親戚がいるわけでもなく、ただ「好き」なだけの京都へ引っ越すことになった。「よく決意したね」なんて言われたけれど、人種も文化もごちゃ混ぜのカオスなニューヨークに比べたら、言葉が通じて、モラルやマナーが暗黙のうちに守られる日本はストレスフリー。国内ならどこにでも住めそうな気分だった。 そんなこんなで京都へ移住し、あっというまに2年と10ヶ月。オットはヘアサロンを営み、私はエッセイストとして執筆の仕事をしながら、京都暮らしを謳歌している。ときどきニューヨークの喧騒や、自由すぎる街の人たち、脂っこい三角ピザが恋しくなるけれど、オットも私もこのままこの街に暮らす気満々でいる。