1兆円もの税金をつぎ込んだ半導体会社「ラピダス」が、大失敗しそうな「3つの理由」
社会人野球 vs 大谷翔平
2番目の不安は現場の実力。ラピダスが挑む「2ナノメートル半導体」は、現在、量産技術で世界のトップを走るTSMC、サムスンですら及ばぬ領域である。ラピダスはそのレベルに「2025年に試作、2027年から量産」という急ピッチで到達しようというのだ。 東京エレクトロン出身で証券アナリストを経て、現在は半導体関連のコンサルティング会社「グロスバーグ」の代表を務める大山聡氏はこう指摘する。 「現在の最先端ロジック半導体ではFinFET(フィンフェット)という構造が使われていますが、2ナノからはGAA(ゲート・オール・アラウンド)という全く新しい構造に移行します。GAAに移行するための技術的なロードマップを持っているのはTSMC、サムスン、インテルの3社だけとされています」 IBMは2015年に半導体の生産部門をグローバル・ファウンドリーズ(GF)という米国のファウンドリに売却しており、GAAへのロードマップは持っていないはずだ。 一方、2000年代に先端ロジック半導体の量産から手を引いてしまった日本には、GAAはおろかFinFETすら、分かる技術者がほとんどいない。端的に言えば、目標とする2ナノの半導体は作れないのではないか、ということだ。 ラピダスはGAAを学ぶため、100人の技術者をIBMの最先端半導体研究開発拠点「アルバニー・ナノテク・コンプレックス」に「留学」させている。だが100人の平均年齢は50歳を超えているという。 彼らが現役バリバリだった頃は「プレーナー型」と呼ばれるFinFETのもう一世代前の構造が主流だった。そんな老兵たちが、まだ誰も実用化したことのないGAAに挑む。しかも先生役は10年近く前に半導体の量産から手を引いたIBM。ラピダスが「五稜郭」と呼ばれる所以である。 業界関係者によると、老兵たちのキャリアは「(かつて東芝のメモリ半導体部門だった)キオクシアやルネサスエレクトロニクスを早期退職した50代。そこに新卒が加わる」という。基本は日本人技術者だ。 ラピダスの求人情報を見ると技術系の年俸は500万~1300万円。新卒初任給は月給20万~25万円。前出の関係者は言う。 「給与は良くも悪くも日本の業界標準。ただTSMCやサムスンは、本気で獲りたい人材には1億円超の年俸を提示する。10年総額7億ドル(1015億円)で大谷翔平を獲得したドジャースと同じです。みんな仲良く年俸数百万円の社会人野球方式でどこまでメジャーリーグと戦えるか」 しかも経営陣は「最終的には試作品の生産ラインだけで2兆円、量産ラインで3兆円。計5兆円の投資が必要」と語っている。何の実績もないラピダスが自力で資金調達できる見込みは限りなくゼロに近く、これからも国にたかる気満々だ。