発症すると死が不可避の狂犬病、「義務」なのに予防接種率は7割に低迷 国内で60年以上発生なく油断、未接種犬が人かむ事件も
発症するとほぼ100%死に至る狂犬病。ウイルスに感染した犬や猫などにかまれると人間にもうつり、犠牲者は世界で年間約6万人と深刻な被害をもたらしている。日本では法律で犬の飼い主に年1回の予防接種が義務付けられているが、30年前までほぼ100%だった接種率は近年、7割程度に低迷する。人間でも動物でも60年以上、国内発生がないことが油断につながっているとみられ、専門家は「狂犬病の怖さが伝わっていない」と懸念する。接種を受けていない犬が人をかみ、地域を不安に陥れる事件も起きた。(共同通信=岩崎真夕) 【写真】狂犬病予防接種受けさせず 子どもら12人襲撃の四国犬 2月
※記者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。 ▽未接種の犬、12人にかみつく 今年2月、群馬県伊勢崎市の住宅から四国犬が脱走し、小学生を含む男女12人をかむ事件が起きた。 飼い主の男性は狂犬病の予防接種を受けさせておらず、県警は3月、未接種の犬を放し飼いにし、7人に全治2週間~1カ月のけがをさせたとして、狂犬病予防法違反や過失傷害などの疑いで男性を書類送検した。 男性は県警に、予防接種が「犬の体に悪い影響があると思った」と説明。自宅で飼っていた7匹はいずれも、予防接種を受けていなかった。かんだ犬は狂犬病検査で陰性が確認された。 そもそも、狂犬病とはどんな病気なのか。岐阜大学応用生物科学部の伊藤直人教授(人獣共通感染症学)は次のように説明する。 狂犬病は動物から人間にうつる感染症の代表的なもので、人間への感染源の99%は犬とされる。狂犬病ウイルスを持つ犬や野生動物などにかまれると、傷口から唾液を介して感染。予防接種やかまれた後の適切なワクチン接種で発症を抑えられるが、発症した後の有効な治療法はない。
水を飲むとけいれんする「恐水症」などの症状が出ることが多く、最終的に呼吸困難などにより、ほぼ100%死に至る。発生のない国や地域は日本など世界でも数えるほどしかなく、世界保健機関(WHO)の資料によると、年間で推計約5万9千人が犠牲になっている。 国内で発生が確認されたのは、人間で1956年、猫で1957年が最後。2020年にはフィリピンで犬にかまれた後に入国した男性が発症して亡くなった事例があるが、長年発生がない「清浄国」だ。 ▽過去には国内でもまん延、7年で撲滅 そんな日本にも、狂犬病がまん延していた時代がある。衆院議員だった故原田雪松氏が書いた「狂犬病予防読本」には、明治時代以降、各地で断続的に狂犬病の流行があったことが記されている。記録に残るピークは関東大震災翌年の1924年で、犬で4211匹、人間で235人が感染したとされる。その後は一時下火になるものの、太平洋戦争末期から再び増え、戦後の1949年に641匹、76人の感染を記録した。