ガザの惨劇 哲学者・鵜飼哲が語る「大量殺戮の時代」の核心【倉重篤郎のニュース最前線】
「こういった米国バイデン政権のヘゲモニーによる対中国包囲網の一環としてのイスラエルを軸とした中東戦略が、パレスチナ側の権利を無視して進められたことと、ハマスの作戦決行が無関係とは思えない。実際の経緯はいずれ資料が公開されれば判明するだろうが、直近の政治情勢として考慮に入れておくべきだ。バイデン政権の選択肢はこの枠組みの中にしかない」 米中覇権対立が底流に? 「昨年3月に中国の仲介でサウジとイランが外交関係正常化で合意したことが大きい。米国は中東での影響力低下という失地回復のため、『一帯一路』に『経済回廊』を対置、サウジを説得してこの構想に引き込みたい。軍事同盟締結や原発開発支援といったカードをちらつかせているのもそのためだ。サウジとしてはガザ停戦とパレスチナ国家承認が、国内世論との関係でも合意の最低条件だ」 「その米国では大学のキャンパスでパレスチナ連帯運動が盛んだ。この動きは9・11やイラク戦争の時期に思想・表現・学問の自由が脅かされたことに対して形成された学生、教員一体の抵抗運動まで遡(さかのぼ)れる。その後ブラック・ライヴズ・マターのような新しい黒人の人権闘争とユダヤ人主体の平和運動が連携していった。こうした異議申し立てを受けている米民主党政権は、大統領選が数カ月後に迫る中、何とか今回の国連決議の線で事態収拾しようとしているが、ネタニヤフ政権の極右閣僚の反対に遭って前に進めない。イスラエルのリベラル系の日刊紙『ハアレツ』には、彼らが米国の中東戦略を台無しにしているという記事も出た」 ネタニヤフ内閣も一枚岩ではない。ガンツ前国防相が9日、ガザ戦争の戦略欠如を理由に戦時閣僚ポストを辞任、ネタニヤフ首相は16日戦時内閣を解散した。 「ますます右に引きずられるとの見方がある。いずれにせよ、ネタニヤフ政権がこの際ガザのパレスチナ人はシナイ半島に、ヨルダン川西岸のパレスチナ人はヨルダンに押し出して、民族浄化を完成しようという意図を持っていることは明らかだ。依然としてラファやガザ中部に攻撃を続け、日々膨大な死者数が記録され、西岸でも入植者が暴れ、多くの犠牲者が出ている」