ガザの惨劇 哲学者・鵜飼哲が語る「大量殺戮の時代」の核心【倉重篤郎のニュース最前線】
もちろん、国際社会も手をこまねいているばかりではない。6月に入り米国が停戦に向けた新提案(全面的かつ完全な停戦、ハマスに拘束されている人質の解放、死亡した人質の遺体の返還、パレスチナ人囚人の交換)を示し、これを国連安保理が支持する決議を採択した(6月10日)。ロシアが拒否権を行使せずに棄権し、中国を含める残り14カ国すべてが賛成した。 二つの国際司法機関も動き出した。戦争犯罪など個人の犯罪を追及、処罰する国際刑事裁判所(ICC)が、ネタニヤフ首相らイスラエル側指導者2人、シンワル・ガザ地区最高指導者らハマス側3人の逮捕状を請求(5月20日)した。国家間の紛争解決にあたる国連機関である国際司法裁判所(ICJ)は、南アフリカによる「イスラエルの行為はジェノサイド(国民的、民族的、人種的、宗教的な集団殺害)である」との2023年12月29日の訴えを受け、ラファ攻撃を即時中止するようイスラエルに暫定命令を出した(5月24日)。 ◇民族浄化を完成しようという意図 果たして、米主導の和平が成功するのか。国際司法機関により正義は体現されるのか。日本への教訓は何か。パレスチナ問題に詳しい哲学者の鵜飼哲(さとし)氏(一橋大名誉教授)と考える。 昨年10月7日のハマス側の突然の越境攻撃の背景に何があったのか。 「手がかりの一つが1月21日、ハマスが越境作戦について発表した見解だ。昨年9月22日の国連総会におけるネタニヤフ演説に言及、『イスラエルという国が、ヨルダン川から地中海まで、西岸とガザを含めて広がっている【新しい中東】なる地図を示したが、このパレスチナ人の権利に関する傲慢と無知に満ちたネタニヤフの演説に対して、国連総会の会場では全世界が沈黙していた』と怒りを表明している」 「ネタニヤフ演説の前段もあった。昨年9月9、10日ニューデリーで行われたG20で、米国がインドと欧州を鉄道や航路で結ぶ大規模な『インド・中東・欧州経済回廊(IMEC)』構想を打ち出した。明らかに中国の『一帯一路』構想に対抗するもので、貿易コストを下げて雇用を創出、温室効果ガスの排出も削減する、との触れ込みで、イスラエルとサウジを中心としたアラブ諸国との関係正常化、和解を促進するだけでなく、中国の影響力拡大をも牽制(けんせい)しようという一石二鳥のプロジェクトだ」