中井美穂「偽善者っぽいと言われることも」 それでもがんの啓発活動を続ける理由
自分の経験を「すごく良かった」とは言えない、それでも発信を続ける理由
――がんの啓発活動をされる中で、課題に感じるのはどんなことでしょうか。 中井美穂: 情報の取捨選択は課題だと思います。いまは2人に1人が、がんに罹患する時代と言われており、情報が多い症例もあれば、患者数が少ない希少がんもあります。希少がんは調べてもなかなか情報が出てこない一方で、エビデンスがない情報があふれかえっているという現状もあります。 本当に正しい情報かを判断し、選ぶのは当事者です。正しくない治療法や、治療薬と併用すると危険な食品やサプリメントなどもあります。だからこそ、周りに勧められたものを全てうのみにしてしまうのは大変な問題。勧める人は良かれと思ってのことだとは思いますが、本当にサプリの効果で良くなったのかは定かではありませんし、高額なケースも多いので注意が必要だと思います。 インターネットで検索をすると、最初のほうに広告が出てくることも多いです。自分の参考にしている情報が広告なのか、病院や個人が自分の名前を明かして発表している情報なのか、エビデンスがあるのかを注意して見ていただきたいと思っています。100パーセント正しいというのはなかなか難しいのですが、患者さんやご家族に正しい情報を届けたいという気持ちを忘れないよう、私も心がけています。 ――著名人がこうした社会活動をしていると批判やバッシングを受けることもありますが、そういった経験はありますか。 中井美穂: 「売名行為だ」とか「偽善者っぽい」と言われることもありますが、自分の名のもとにおいて、責任を持ってやっている活動です。やらないよりは、やったほうが良いと思って続けています。あらゆる活動も、全員から賛同を得られるわけではないですからね。 実際、私が女子アナとして活動を始めた時も「素人の目線が活かされていて面白い」と言う人もいれば「技術が低い」とか「色目を使っているんじゃないか」と言う人もいました。さまざまな声の中に、真っ当な意見もあるんですよね。だからこそ見極めて、直すべきところは直し、根拠がない誹謗中傷は忘れていく。女子アナ時代の経験が活かされているかもしれないなと思います。 人工肛門についても、今となってはOGなので「中井さんは1年しか経験していないから、こんなに明るく話せるんじゃないか」と言われることもありました。永久的に人工肛門をせざるを得ない方もいる中で、1年間しか経験していない自分が発信をして良いのかと思う時期もありました。でも、私は自分の経験したことしかお話ができません。私の発信を通して人工肛門に少しでも親近感を持っていただければ良いですし、「だれでもトイレ(バリアフリートイレ)」に行った時などに「あ、こういうことなのかな」って、ちょっと思い出してもらえばいいなと思っています。 ――病気や啓発活動の経験をもとに、健康面で悩まれている方にアドバイスできることはありますか。 中井美穂: 病気になりたくてなっている人はいないわけですから、自分の経験を「すごく良かった」とは言い切れません。でも、病気になったときにどう受け止めるかは本人次第というところもあります。治療内容や心情の変化を自分で観察し、メモをして、誰かに話すことで自分の考えがまとまるかもしれませんし、人の役に立つことができるかもしれない。 人工肛門だった1年間の経験をマイナスで終わらせるのではなく、プラスの出来事につなげたいというのは入院している時から考えていました。いま辛い経験をしている方も、その経験を人のために活かすという考え方はお勧めしたいですね。しかし、全員ができることではないと思うので自分の性格なども見極めて欲しいです。発信をすることで新たなつながりができることもあるので、お話しできる方はしていただけると良いのかなと思います。 ---- 中井美穂 1965年、東京都出身(ロサンゼルス生まれ)。1987年日本大学芸術学部卒業後、フジテレビに入社。アナウンサーとして活躍し、多くの番組に出演。1995年にフジテレビ退社。1997年から2022年までメインキャスターを務めた「世界陸上」のほか、さまざまな番組に出演。NPO法人キャンサーネットジャパンの活動にも賛同し、2019年理事に就任。映画・演劇にも造詣が深く、2013年より読売演劇大賞の選考委員、2020年より新国立劇場の理事も務めている。 文:優花子 (この動画記事は、TBSラジオ「荻上チキ・Session」とYahoo! JAPANが共同で制作しました)