病院勤務犬、看取り犬、盲導犬…“癒し”以上に“救い”を与える犬たち「人間との関係ではできないことを可能にする」
昨今、犬は“ペット”の枠を超え、“家族の一員”として存在している。そんな彼らの在り方は時に、人間の心に寄り添い、肉体的にも精神的にも支えとなることもある。今回は“看取り犬”“病院勤務犬”“盲導犬”というそれぞれの立場から人々を支える3匹の犬たちをあらためて振り返る。 【画像】ミカと一緒なら手術も乗り越えられる!気管の病気と闘うT君がミカとともに手術に臨み、5年後再会するまで
■患者に寄り添う“病院勤務犬” 「手術は怖いけどミカとなら、と前向きになってくれた」
聖マリアンナ医科大学病院で働くスタンダードプードルの“モリス”と“ミカ”は、動物介在療法を通し、医師や看護師と共に日々、患者たちのケアをしてきた。 当時、気管の病気と闘う4歳の男の子がいた。毎月手術を受けなければいけない状態だったが、怖さや痛みなどから、手術室へ向かうときにはいつも大泣き状態。だが、「ミカを手術室まで連れて行ってね」とお願いすると、自分から向かってくれるようになったという。 「“僕はお兄ちゃんなんだ”という感情が芽生え、手術は怖いけどミカとなら、と前向きになってくれた。自立性を高める勤務犬の本来の活動目的と一致した形です」(初代ハンドラー・佐野政子さん) 男の子は麻酔がかかるまで、「ずっと側にいてね」とリードを離さなかった。目が覚めたときも、痛みと熱でうなされているときも、ミカは彼のそばにずっと寄り添い見守っていた。 度重なる手術に苦しむ我が子の姿に「もう辛くて手術を受けさせたくない」と思い悩んでいた親御さんも、「命が助かったのはミカがいてくれたおかげ」と涙を流したという。 ミカの後を引き継いだモリスも人が大好きで、一度会った人の顔は忘れない。モリスはただ癒しを与える存在というだけではなく、しっかりと動物介在療法を行っている。 「なかなかリハビリが進まない患者様に意欲をつけていただいたり、もう治療ができないと言われた癌の患者様が苦痛と闘われるなか寄り添ったりと、さまざまな活動を行っています」(ハンドラー・竹田志津代さん) モリスは、ときに医師と同じように手術帽を被ることもある。これは、手術前に不安で泣き出しそうな顔になっている子どもを励ますための行為だ。 「そういうときに『モリスも一緒に頑張るよ!』って手術帽を被せると、その姿に思わず笑顔になってくれるんです」(ハンドラー・大泉奈々さん) 同病院が勤務犬の本格的な導入を検討し始めたのは2012年のこと。まずは毎月2頭ずつの犬に病院に来てもらい、その中に初代の勤務犬となったミカがいた。ミカはセラピー性を買われて、スウェーデンから日本に譲渡された犬だった。 「プードルは毛が抜けず、匂いが少ないのが特徴。大型犬で頭がいいのに加え、人が大好きなミカの性格は勤務犬に向いていると思いました」(佐野さん) そこからハンドラーの育成、資金面など、さまざまな準備を進め、2015年に初代勤務犬・ミカが誕生した。「犬は清潔ではない」という感覚は医療現場でも根強く残っているそうだが、定期的に行われる抜き打ち検査でもミカは基準値を毎回クリアしている上、導入から現在まで、事故や苦情は1件も起きていないという。 大きな病気や事故により、生活が一変した患者さんは、何もかも受け入れられずシャットアウトしてしまうことも…。そんなときに、ただ鼻を擦りつけて寄ってくるモリスを見て、今まで拒否していたものを自然と受け入れてくれることがある。 「ここにだったら自分の気持ちを見せていいんだと思っていただける。人間との関係ではできないことを可能にする場面に立ち会うと、いつも感動します」(大泉さん) ミカは2021年に虹の橋を渡った。現在は、モリスとともに、3代目としてゴールデンレトリーバーのハクが加わり、患者さんたちのケアにつとめている。