病院勤務犬、看取り犬、盲導犬…“癒し”以上に“救い”を与える犬たち「人間との関係ではできないことを可能にする」
■死期を悟る“看取り犬”文福くんの持つ共感性の高さ「弱っている人を放っておけない」
神奈川県横須賀市の特別養護老人ホーム「さくらの里山科」にいる文福くん。入居者の死期を悟り、最期まで寄り添う“看取り犬”として有名で、共に暮らした20名以上の入居者すべてを看取ってきたという。 雑種犬の文福くんは推定14~15歳。「さくらの里山科」にやってきてから2年近く経った頃、文福くんが悲しげな表情で、ある入居者さんの部屋の前でうなだれていた。職員が「文福、入る?」と声をかけるとついてきて、ベッドの脇に座り込んだ。 「それからトイレやご飯以外は片時も動かなくなり、入居者さんの顔が苦しそうに歪んだときにはベッドに上がって優しく顔や手を舐めることもありました」と施設長の若山三千彦さんは振り返る。 それから3日後、その入居者は天に召された。死期を悟るだけではなく、最期まで寄り添う明確な意思がそこにはあった。文福くんのこの行動は初めてではなく、半年前にも同じことがあった。その後も何度も見られ、これまでに文福くんが看取った入居者さんは20名を超えている。 “その人らしい最期を迎えさせてあげたい”という「さくらの里山科」のターミナルケア指針にも、文福くんは大いに役立っている。 「『若い頃に過ごした漁港に行きたい』とうわ言のように言い続けていた元漁師の入居者さんがいたんです。すでに余命1週間の宣告を受けており、医学的には外出なんてとんでもない状態でした。しかし、文福の看取り行動はまだ始まっていなかった。私たちは文福を信じようと思いました」 体調が安定していた日、介護スタッフと家族に付き添われて漁港に着いたその入居者は涙を流して喜んだ。文福くんが看取り行動を始めたのは、帰ってきてから4日後のことだった。 犬や猫の看取り行動について、「匂いでわかるのでは?」と言う獣医さんは多いという。 「特養で亡くなる方は基本的には老衰で、食べ物や水分を受け付けなくなり、息を引き取っていく方がほとんど。犬や猫は嗅覚が鋭敏のため、そうした枯れていく匂いを感じ取っているのではないでしょうか」 さらに、文福くんは共感性が高いため、寄り添うような行動も見せると考えられる。 「弱っている人を放っておけないんでしょう。仕事で失敗して落ち込んでいたら、文福が寄り添ってきたという体験をしているスタッフは何人もいます」 文福くんは元保護犬で、保健所で殺処分になる寸前に、開設準備をしていた若山さんに引き取られた。文福くんがいなかったら、犬や猫と一緒に暮らすという試みを12年間も続けてられなかったかもしれないと若山さんは語る。 「看取りという活動よりも、文福がみんなに寄り添い、みんなが文福と一緒にいることを喜んでくれる。そういう存在がいたからこそ、私たち、自分たちのやっていることには意義があるんだと実感することができました」