病院勤務犬、看取り犬、盲導犬…“癒し”以上に“救い”を与える犬たち「人間との関係ではできないことを可能にする」
■目となりサポートする“盲導犬”「お互いに助け合って暮らしていくことは、決して虐待などとは思わない」
視覚障害者の“目”としての役割を果たす盲導犬。でも、それだけではなく、生きていく上でのパートナーとして、その存在自体が大きな支えにもなっている。 公益財団法人関西盲導犬協会の浅野美樹さんによると、訓練をして最終的に盲導犬になれる犬は3割程度。盲導犬になるために必要な素質は「健康であること」と「落ち着いた性格であること」だという。 「神経質な性格よりは、どっしりと構えて物事や環境の変化などに対してあまり動じない性格。基本的にポジティブな性格の犬が盲導犬としての適性があります」 盲導犬の候補犬は、生後60日を過ぎた頃にパピーウォーカー(パピーを預かるボランティア)に預けられ、1歳まで育ててもらう。そこから協会に戻り、約1年の訓練を重ねて、2歳頃に盲導犬としてデビューをする。盲導犬の訓練は厳しいイメージを持たれがちだが、実際は褒めて育てるのだという。 「訓練士が根気強く教えて、できたら褒めるをくり返すことで、犬たちも『次は何?』と尻尾を振って喜んでいろいろなことを覚えていきます。叱る訓練だと、犬も逃げたくなっちゃうのでね」 また、叱る訓練で育てると、訓練士師の言うことは聞けても、盲導犬ユーザーさんの言うことを聞かなくなることがある。例えば、年配の優しい女性がユーザーさんになった場合、「この人は怒らないからお仕事しなくてもいいかな」と考えることもある。 「誰といても同じようにできる、犬が自分から進んでするということが大事なので、持って生まれた性格と訓練が合わさって盲導犬として成長していくという感じです」 近年はAI技術が発達し、視覚障害を持つ方のための自立型誘導ロボットなどの開発も進んでいる。だが、「命がある盲導犬は、ツールではない」と浅野さんは語る。 「人と犬、お互いの命ある者同士、かけがえのないパートナーになり、信頼関係だって築ける。そういったところが一番大きいですね」 事故で突然すべての視力を失った女性がいた。目が見えなくなると、真っ暗なところに放り出されて自分だけが取り残された気分になり、絶望しかない状態だったという。 「でも、盲導犬を持ったことでどこにでも行けるようになって、社会復帰もできた。何よりも『そばにいてくれることで温かくて心の支えになった』と言っていたんです。やはり盲導犬にはそういった力があるんです」 「犬を人間のために働かせるのはかわいそう」という意見もある。これに対し、「嫌がっているのに無理やり人間のために道具として扱うのは私も反対です」と浅野さんは答える。 「でも、本当に喜んで次々と覚えていく能力のある犬が、感謝されて信頼感を得ながら、お互いに助け合いつつ視覚障害の方と歩き、暮らしていくことは、決して虐待などとは思わないです」 ヨーロッパではペットもレストランに一緒に入店できたり、電車に乗れたりする。それはしつけが行き届いているからこそだ。 ペットも小さいときからある程度はしつけをして、ペットを飼っていない人も暮らしやすくなるような環境になれば、盲導犬に対する理解も深まるだろう。 「ただかわいがるだけではなくて、飼い主さんが責任を持って犬にマナーを教える。日本のペット犬のマナーが向上することによって、盲導犬をはじめとする使役犬の入店拒否問題も解決し、そして犬と人がよりよく共存しやすい社会になっていくと私たちは考えています」