「自分で考える子ども」育ててきた創立20年の東京コミュニティスクール、フリースクールの本当の意味
基本理念「自和自和」の意味するところ
TCSは、「自和自和」という基本理念を掲げている。同校の学校案内には、それを次のように説明している。久保氏が考える教育のあり方である。 「『自和自和(JIWAJIWA)』とは、『自分らしさを活かし、人や社会や自然との和(つながり)を楽しみ、ともに学び着実に成長する』という意味を表すことばです」 小学校では2020年度、中学校では2021年度から完全実施となっている現学習指導要領の「基本的な考え方」について、文部科学省のホームページは「自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力」を育成すると説明している。 その背景には、今後の社会を「予測できない未来」だとし、「社会の変化に受け身で対処するのではなく、主体的に向き合って関わり合い、その過程を通して、一人一人が自らの可能性を最大限に発揮し、よりよい社会と幸福な人生を自ら創り出していくことが重要である」(中央教育審議会〈中教審〉教育課程企画特別部会資料 2015年11月)という考えがあるからだ。 中教審も文科省も「自分で考えられない子どもたち」ではなく「自分で考える子どもたち」の成長を支援しようとしている。それは、久保氏の考えに通じるものがある。 こうした方針が、現行の学習指導要領で初めて打ち出されたわけではない。文科省のホームページは、1996年の中央教育審議会(中教審)答申(21世紀を展望したわが国と教育の在り方について〈第一次答申〉)において提唱され、この考え方に立って2002年4月から順次実施されている学習指導要領から「知識や技能を単に教え込むことに偏りがちな教育から[生きる力]を育成する教育へとその基調転換」してきたと説明している。 2002年度から実施された学習指導要領は、いわゆる「ゆとり教育」の学習指導要領として知られている。しかし学力低下につながるとの大攻撃を受けることになり、あえなく実施前から「教え込む教育」に方向転換させられた。そして、「教え込む」教育が学校現場では強まっていく。「自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し」とうたっている現行の学習指導要領での学校教育も、掲げた「理想」の達成は難しく、ますます「自由な思考ができない若者」を増やしている。 久保氏と文科省は同じような問題認識に立っていた。違ったのは、文科省はつまずいてしまっているが、久保氏はTCSを創立して、「理想」を実践しているところだろうか。