京アニ放火殺人、青葉被告の再犯防止支援は「やれることはやっていた」のに、なぜ防げなかった? 犯罪学の研究者が語る「刑務所の実情」
▽「刑務所太郎」が意味するもの ―刑務所で人間関係を築くのは、それほど難しいのでしょうか? 海外の研究者と話していて、日本の刑務所に関して一番驚かれるのはその点です。「こんなに外の世界とかけ離れた生活をしていて、社会復帰できるのか?」と。 例えば、ある元受刑者と話していた時に聞いたのですが、配偶者からよく怒られるそうなんですね。聞いてみると、彼は何かをするたびに逐一、配偶者に報告しているらしい。「今からトイレに行く」とか「買い物に行く」とか…。刑務所の時に習慣づけられていた行動です。 「刑務所太郎」という言葉がありますけど、それぐらい刑務所の異質な環境になじんでしまう。 島根あさひ社会復帰促進センター(島根県浜田市)では、犯罪を起こした当事者同士のコミュニケーションを図る「治療共同体(TC)プログラム」に取り組まれています。ただ、島根以外では行われていません。 ▽「拘禁刑」で変わる刑務所の処遇
―そうした処遇のあり方は変化する見込みはありますか。 受刑者の「改善更生を図る」ことを理由に刑法改正がなされ、2025年から懲役刑と禁錮刑を統合した「拘禁刑」に変更されます。これによって、受刑者の社会復帰に資するような処遇が求められ、コミュニケーションを重視しなければならなくなります。 また、2023年に起きた名古屋刑務所での暴行事件で、刑務官同士のコミュニケーションや職場風土の問題も指摘されています。 以前、ある研修の際に、自治体職員や刑務所の職員の方々と一緒に新しい再犯防止策を考えようとアイデアを出し合ったことがありました。その時のやりとりで、刑務官の方々が持つ固定観念の強さを痛感したんです。 例えば、ある福祉職の方が出したアイデアに対して、刑務官の方は「それは無理なんですよ」と応じたんですね。それで「なぜ無理なんですか?」と聞くと、「いや、だってやっぱりそれは…」みたいな。本人の中では、これまでの経験上、実行は難しいとの感触があるんでしょうけれど、なぜそれが駄目なのか第三者から聞かれた時に「決まりだから」とか、「前例がないから」以上のことがなかなか具体的に議論できないのです。