夏休み必見!『デューン/砂の惑星/Part1,2』砂漠の中でドレープがたなびく、完璧な映像美に圧倒され…アカデミー賞6部門を受賞したSF映画
◆難物の映画化 原作は1965年に発表されたフランク・ハーバートのSF大河小説「砂の惑星」。その世界観が多くの監督や制作者を魅了するも、映像化は困難を極め、最初の監督ホドロフスキーは10時間の作品を企画したが中止に追い込まれた。1984年にはかのデヴィッド・リンチが映画製作。2000年にはテレビシリーズが製作されるも、共に失敗作と評されている。 「それも仕方ない」と思うのは、とにかくスケールが大きく、実写化が難しかったのは当然だからだ。しかし先人の努力の上に5人目の挑戦者となったドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、遂にこの難物の映画化に成功した!! 最初観た時、『惑星ソラリス』を連想した。やはりヴィルヌーヴ監督は、タルコフスキー監督のファンだそう。また、主演のティモシー・シャラメは、『ベニスに死す』の主人公タッジオを演じたビョルン・アンドレセンを思わせる美しさ。多くの人が「彼の瞳には、仄暗さが宿っている」と表現しているが、美しすぎる俳優特有の「軽さ」が無い。 トム・クルーズやディカプリオでさえ若いころはアイドル俳優だったし、ヨーロッパ出身の名優マイケル・ケインも、初期の主演映画『アルフィー』では軽さを否めない。しかし、ティモシー・シャラメは27歳の若さで特別にシリアスな役を得、文學的な雰囲気をまとうトップスターに躍り出た。 ユーチューブなどのゴシップを見れば、10代はやんちゃなRAP少年だったようだが、数々の名監督に愛され、良質な作品に抜擢されるようになり、『君の名前で僕を呼んで』で、繊細な芝居ができることを証明。今を時めくスタートとなった。このまま伸びてと願わずにいられない逸材だ。
◆人間ドラマ ストーリーは、架空の惑星「アラキス」での覇権争いと、その中の人間ドラマ。実に複雑な設定の中で多くの登場人物が現れるが、一度見ただけでも理解し、感動してしまうのは、製作スタッフの驚異的な手腕ゆえだろう。 ティモシー・シャラメ演じるポールは、アラキスで採集される香料の採掘を担うことになったアトレイデス家の後継者だが、最初は王子として生まれたことに抗っている。父は「王になるものはそれを選べない」といい、王の愛妾としてポールを生んだ母レディ・ジェシカは「アトレイデス家を継ぐために」と、ポールに声で人を操る妖術のようなものを伝えようとする。 この母を演じるレベッカ・ファガーソンが半端なく恰好よく、Part2ではいかにも秘密結社の巫女風になっていく。古代文字の呪文を体中に入れ墨し、「耳なし芳一」ばりに妖しくなっていくのがまた見もの。 このほかスティルガーという忠臣がポールに武術を伝え、最初はなよっとしていたポールが、見事な「男」に変容していくのだ。
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