北朝鮮のロシア派兵:国際社会を敵に回す暴走
高畑 昭男
北朝鮮のロシア派兵がウクライナへの侵略戦争をより複雑なものにしている。北朝鮮はさらに米大統領選目前の10月末には米全土を射程に入れる新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を強行した。軍事協力を深めるロ朝両国の振る舞いは、欧州と東アジア双方の安全を同時に脅かしている。
「北の参戦」 侵略の手助け
ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩総書記は6月、有事の相互軍事支援を含む「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結した。ロシアへの派兵はこの条約に基づく措置とみられ、米韓などによれば、その規模は1万人を超す大部隊だという。 北朝鮮は昨年夏以来、ロシアに大量の武器・弾薬を供給してきた。ウクライナ侵略に実戦部隊が加われば、第三国による初の参戦となり、戦争の性格を2国間から多国間へと飛躍させかねない重大なエスカレートである。ウクライナ政府の強い反発に加えて、10月末に開かれた国連安全保障理事会の緊急会合では、ロシアを除く理事国の大半が「派兵は国際法違反」とする懸念を表明した (※1)。 ロ朝のパートナーシップ条約自体が、北朝鮮に対する数多くの国連安保理決議に照らして、既に「決議違反」とされている。先進7カ国(G7)防衛相会合や、欧州連合(EU)、北大西洋条約機構(NATO)も非難を強めており、NATOのルッテ事務総長は「紛争の危険な拡大につながる」と警告した。
ロシアの半島有事介入も
さらに憂慮されるのは、北朝鮮のウクライナ参戦がまかり通るならば、今後、朝鮮半島で有事となった際に、ロシアが北朝鮮を支援する名目で参戦する可能性があることだ。ロ朝はウクライナと朝鮮半島での相互支援を示唆することで、NATOや米国、日韓などをけん制する狙いがみてとれる。 米韓両国も事態を深刻に受け止めている。事実上のロ朝同盟を象徴する今回の派兵によって、「欧州のウクライナ戦争と東アジアの朝鮮半島情勢がリンクしてしまった」(※2) と分析する専門家もいる。 韓国の尹錫悦大統領は「北朝鮮の部隊がウクライナで実戦経験を積めば、韓国の安全に脅威となる」とウクライナのゼレンスキー大統領に伝え、ロ朝への実効ある対抗措置として、これまで控えていた攻撃用兵器をウクライナに供与する姿勢を示唆した(※3) 。また、ワシントンで開かれた米韓外務・防衛閣僚協議(2プラス2)では、「あらゆる対抗措置の選択肢」を協議したという。