日本短距離界に2人の最速DNAを持つ異色スプリンター
陸上の日本選手権は、明日26日から新潟で開催されるが、注目は28日に決勝が行われる男子100mだ。9秒台に最も近い男とされる桐生祥秀(19歳、東洋大)が故障欠場となったが、スター不在の日本最速男を決めるレースに“最速遺伝子”を持った2人の異色スプリンターが登場する。 一人は、4月の織田記念の100mで10秒37を出し桐生に勝って初優勝を果たしたケンブリッジ飛鳥(22歳、日大)だ。世界最速男、ウサイン・ボルトを生んだジャマイカ人の父を持つ。上体が浮くスタートから序盤のレースが課題だが、179センチ、77キロの恵まれた肉体を生かした加速力はワールドクラス。2013年の東アジアでは、200mで優勝、4×100mのリレーメンバーにも選ばれ大会新記録で優勝している。 2歳までジャマイカで過ごしたが、両親の仕事の関係で日本に引っ越し、小学校時代はサッカーに夢中で中学から陸上を始めた。東京高2年で10秒台に突入。インターハイの100mで3位。ジュニア日本選手権の200mで優勝するなど、注目を集めていた。昨年は母の知人の紹介で、18年ぶりに生まれ故郷のジャマイカを訪れて、ウサイン・ボルトが所属するチームで1週間の合同トレーニングを積んだ。 「肉体の違い、フィジカルの違いを実感した」と、このオフには、筋力トレーニングに本格的に取り組み、筋量を増やすことに成功。打倒・桐生につなげた。自己ベストは、昨年5月の関東インカレで出した10秒21。故障がちな部分が不安点だが、「優勝を狙いたい」と意欲満々で日本選手権に乗り込む。
もう一人の最速遺伝子を受け継いでいるスプリンターが、サニブラウン・アブデル・ハキーム(16歳、城西大城西高)だ。ガーナ人の父を持ち、母は福岡県宗像高時代に100mと100mHでインターハイ出場経験がある。その母がアトランタ五輪のリレー代表だった大森盛一氏と知り合いで、小学校3年から、その大森氏の陸上クラブに入って陸上をスタートさせた。城西大城西中に進んでからは、同校のコーチでもあるシドニー五輪代表の山村貴彦氏の指導を受けている。 まだ高校2年生だが、5月の東京都大会で10秒30をマーク。フォームは、荒削りながら187センチの恵まれた肉体を活かしたダイナミックな走法で、今年1月には、2020年の東京五輪にむけて「メダル、入賞が期待される」アスリートを陸連がサポートする「ダイヤモンドアスリート」に認定された。その可能性は果てしないが、本人も「練習をすれば、まだまだ記録は伸びていくと思う」と前向きだ。 先日、中国の蘇炳添が米国のダイヤモンドリーグで黄色系人種として初めて9秒99をマーク。桐生も追い風参考ながら9秒87を出すなど、アジアも9秒台の時代に突入しようとしている。桐生不在の日本選手権で、“最速遺伝子”を持った2人の若きスプリンターが、どんな可能性を見せてくれるのか。レースに注目である。