AIの教育活用に踏み出すシンガポール…世界トップ級の学力、生き残りに懸ける カメラで児童の動きを検出、中国技術の台頭がもたらすものは「監視」か「安全」か
ダニエルが説明していたのは中国の監視カメラ大手、杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)の製品だ。学校の外や入り口のカメラで不審者を警戒するのは序の口だ。 学校中にカメラやセンサーを設置し、事前に生徒らの顔画像をシステムに登録する。画像認識技術を用いたAIを通じ、生徒の居場所を特定できるほか、急に生徒が集まりだすなど特異な動きを察知できる。ダニエルは「モニターを見ていれば、昼休み中でも生徒が多く集まっている場所を把握できる。いじめや事故を未然に防げる」と話す。 教室の前に設置されたカメラは授業中も目を光らす。出欠確認に加え、生徒の顔の動きや居眠りといった動作をAIで検出し、学習態度を観察する。「生徒の集中度合いをデータ化し、授業の改善に役立てられる」。ダニエルは自信満々に自社製品の優位性を語り続ける。行き過ぎた監視ではないかと問うと、「安全のためだ」と迷いはない。 ハイクビジョンは中国政府直轄の企業集団の傘下にある。新疆ウイグル自治区で、中国政府の抑圧政策に反発する少数民族の大規模監視システムの構築で重要な役割を果たし、米国政府から禁輸措置を受けている。
弾圧と監視で培われた緻密な技術を教育現場で使う不気味さに戸惑う。ダニエルによると、コストの高さから導入先は学費が高いアジアや中東の私立校やインターナショナルスクールが中心という。 会場で講演をしていたシンガポールの教師は「休み時間中の会話や遊び相手などの子どもの動きをデータ化することで、子ども同士の関係が分かるようになるかもしれない。孤立した子どもを把握できるようになる」と技術の発展に期待を示していた。トルコの教育関係者は子の安全を願う親の気持ちは理解できるとして、「いじめの問題はわが国でも深刻だ。ウイグル弾圧に使われた技術でなければ、使ってもいいかもしれない」と話した。