AIの教育活用に踏み出すシンガポール…世界トップ級の学力、生き残りに懸ける カメラで児童の動きを検出、中国技術の台頭がもたらすものは「監視」か「安全」か
チャン・チュンシン教育相は昨年9月の教育関係者向けの講演で「技術こそがわれわれを速く遠くへ連れて行ってくれる」と強調。今後、英語の文法やつづりの学びを助けるAI教材などの導入を増やしていく方針だ。 教師も変化を迫られている。レークサイド小学校のチャン・コクホンIT部門長(42)は同僚教師約120人のIT教育係を担う。自身も「チャットGPT」を使い、算数で「平均」の概念を説明する際のプリントを作るなど試行錯誤を重ねる。 シンガポールでは公立学校ごとにチャンさんのようなITの運用の責任者を置く。政府は機器の購入などの予算を与え、学校ごとにAIやデジタル技術を活用した独自の教育カリキュラムの作成を促している。レークサイド小学校では物語創作をした後、プログラミングでアニメをつくる授業や、ロボットをプログラミングで動かす授業などに取り組んでいる。 チャンさんは「子どもの成長という目標は変わらないが、(AIの出現で)教師の定義は変わる。教師と言うよりも教育家(エデュケーター)になるのではないか。われわれも学び続けなければならない」と話した。生徒のモチベーションを引き出し、学び全体をコーディネートすることが重要になるとみる。
▽漏洩リスクや先入観も アジアでは中国、台湾などでも教育現場へのAI導入が進むが課題もある。例えばデータの取り扱いだ。シンガポールではAIやオンライン学習で蓄積された子どものデータは、転校した際や上級の学校へ進学した際に引き継がれる。学習データは教材の改善などに使われるが、漏洩リスクもある。 蓄積されたデータが生徒の能力への先入観や偏見を大きくしてしまう可能性もある。香港教育大学のルイ・チーキット教授は「教育には生徒の未来がかかっているが、AIの意思決定は説明不能、理解不能なこともある。政府は政策や規制で、こうしたリスクに対処しなければならない」と指摘した。 ▽監視か、安全か AIの活用は教材だけではない。アジアでは学校運営に適用する動きも出てきたが、プライバシーの問題と隣り合わせだ。 「これは監視カメラじゃない。アカデミック(教育)カメラだ」。ダニエルと名乗る中国系の説明員が早口の英語でまくし立てた。シンガポールで昨年11月に開かれた展覧会を訪ねたときのことだ。AIなどの先端技術を学校運営や学習に用いる「教育テック」に関わるスタートアップや大手企業が世界各国から集まっていた。