実は渋谷じゃない発祥の地 スクランブル交差点、55年前に初設置
全ての方向の車が赤信号で停車する中、縦横斜めに敷かれた横断歩道を買い物客や学生が行き交う。スクランブル交差点といえば、東京・渋谷駅前の光景が国内外で知られているが、日本で初めて設置されたのは1969(昭和44)年、熊本市内にさかのぼる。 【写真で見る】日本初のスクランブル交差点 記念碑も 昭和30~40年代、モータリゼーションの急激な進展で、全国の交通事故死者は年間1万人を超えた。「交通戦争」(第1次)と呼ばれる事態に、各地では歩道や信号機整備が進められた。 対策が急務とされた場所の一つが熊本市中央区の子飼交差点だ。そばに子飼商店街があり、熊本大や高校も近い。当時は路面電車の終点もここにあった。「とにかくごった返していました」。地元校区の自治協議会長、森義久さん(79)は往時をそう語る。 あふれる人と車を見かねた熊本県警は、欧州視察を踏まえてスクランブル化を決めた。「熊本県警察史」を開くと、子飼のスクランブル交差点について「事故・渋滞・歩行者保護対策として効果をあげた」との記述がある。その後、スクランブル交差点は全国に広がり、今では約1000カ所(2023年度末、警察庁調べ)に上る。 設置から半世紀以上を経て、全国に先駆けて安全が図られた交差点を大切にしようと、24年、子飼交差点そばに記念碑が建った。森さんが発案し、隣の校区の賛同も得て完成した高さ約1メートルの石碑には、正面に「スクランブル交差点発祥の地」とあり、その歴史も背面や側面に文字で刻まれている。 地元で金物店を営む高光守康さん(78)は「商店街も元気づけられる」と石碑を歓迎。熊本県立済々黌(せいせいこう)高2年、住(すみ)夏綺さん(17)は「いつも通る場所が日本初だなんて」と驚くなど若者らの関心や地元愛も呼び覚ましている。 最近は熊本県に半導体大手「台湾積体電路製造」(TSMC)が進出し、子飼交差点を含め熊本市内の交通量は増えているという。 森さんは願う。「スクランブル交差点は安全を守ってきた地域の宝。これからも役割を果たしてほしい」【中村敦茂】