「国民の大半が政府メディアを信用」──亡命したロシア独立系メディアが伝えるウクライナ侵攻
バルト海とロシアに挟まれた「バルト三国」は何百年もの間、ドイツやロシアなど近隣の大国に翻弄されてきた。その一つ、ラトビアの首都リガでは、装飾的なヨーロッパの建築が並び、ウクライナへの支援を示す黄色と空色の国旗が街のあちこちに掲げられている。一方、中心部を離れると、一昔前のアパートが並んでいる地区も多い。1991年までの約半世紀、ソ連の支配下にあったことを物語る建物だ。そんなラトビアで、プーチン政権に批判的なロシア人ジャーナリストたちの「亡命メディア」が活動を続けている。ロシアによるウクライナ侵攻後は、その報道に世界の注目が集まった。彼らはいったい、何を伝えているのか。(文・写真:桑島生/Yahoo!ニュース オリジナル特集編集部)
バルト三国、ラトビアの首都リガで
「戦争は仕事も生活も一変させました。最初の数カ月は仕事以外に何をしたか、覚えてもいません。マラソンをノンストップで走っていた感じです。きょうがちょうど、(ロシアによるウクライナ侵攻から)300日目。こんなに長く続く戦争は本当につらい。でも、つらい時には、ウクライナのジャーナリストたちのことを思うんです。彼らはもっと大変な状況で仕事をしているんだ、ってね」 イヴァン・コルパコフさん(39)は、戦時の日々をそう表現した。亡命したロシア独立系メディアの代表格「メドゥーザ」の編集長である。 メドゥーザの前身は、ロシアの独立系オンラインメディア「Lenta.ru」だ。2014年のロシアによる一方的なクリミア半島の併合後、ロシア国内の言論活動は厳しく規制されるようになった。自由な報道を続けるため、やむなく国外へ出た旧Lenta.ruメンバーが、2014年に隣国のラトビアで設立したのが「メドゥーザ」だ。
メドゥーザはロシアや周辺国のさまざまな出来事をインターネットで報道している。ロシア政府の内部に情報提供者がいる模様で、詳細な調査報道からはロシアの政府内部、ビジネス界、軍などがどのように動いているかを知ることができる。 ロシアでは以前から厳しい報道規制があったが、ウクライナへの侵攻後はそれが一層厳しくなった。戦時検閲によって国防省の公式発表しか報道を許されない。侵攻は「特別軍事作戦」と表現せざるを得ず、「戦争」と呼ぶことさえ違法になる。したがって、ロシア国内ではウクライナでの事実を伝えるあらゆる報道が投獄の可能性を意味する、とコルパコフ編集長は語る。 「それもあって、ロシアに残っていたすべての社員を国外に避難させました。戦争開始直後、20人近くがヨーロッパ諸国やトルコ、ジョージア(グルジア)、アルメニアなどへ脱出し、もうロシア国内にスタッフは残っていません。ロシアに残っているのは各地に散らばっているフリーランサーたちだけです」 ロシアの独立系メディア「プロエクト」によると、ロシア国内では侵攻開始から半年間で約5500のサイトが強制的に閉鎖され、500人以上のジャーナリストが国外に脱出している。欧米メディアの特派員も相次いで去った。ロシア国内の様子を伝える確かな情報が少なくなっている背景には、そうした理由がある。